サイモン・シャーマの『レンブラントの目』にルーベンスのスケッチの画像が載っていた。それが素晴らしいので,書きたくなった。

 

 もとの文脈では,レンブラントが20歳ぐらいの若い時に描いたエチオピアの人の洗礼を描いた作品について述べている。そのエチオピア人の顔が,当時の師匠の絵と比べて「何変哲もないムーア人類型の相貌を捨て,アフリカ人の顔の見事に個性化された群像をはっきりと,自信を持って描き込んでいる。」(p245)これに先立つのはルーベンスのスケッチのみと引き合いに出している。まずレンブラントの絵を見てみよう。
1626  ユトレヒト美術館
跪いて胸に手を当て今しも洗礼を受けようとする男,その後ろで緑のマフラーを首に巻いている男,馬の前で聖書を広げている男の三人がいわゆる「アフリカ人」である。師匠の絵ではまるで個性のない顔立ちなので比べれば,個性的に描いていると言えるかもしれないが,まだまだ深みに乏しい。
 
シャーマ曰く「一人のアフリカ人の顔を深い共感を込めて,いろいろな角度から描いた」ルーベンスのスケッチ。
1617 ブリュッセル 王立美術館
これは同じ王立美術館にある「三王の礼拝」のために描かれたスケッチらしい。この絵の白いターバンを巻いた男が,上のスケッチの中央上の歯を出して笑っている男のスケッチを元に描かれたものだろう。
1619 ブリュッセル 王立美術館
 完成した絵画より,スケッチの方が生き生きとしたこの男性の魅力を感じる。何よりとても現代的と感じるのはなぜか? 目の前にいる人間の顔を偏見なしに「共感を持って」捉えているその姿勢,17世期にそう言う目を持てたのはヨーロッパをあちこち旅する人だったからか,画家としての天性か。