警部補と若田が視線を向けた場所には、病院の待合室のソファーで深々と座り、新聞紙を広げている1人の男がいた。
若田「アンタ一体、なんで黒崎のことを?」
?「……気になったら調べてるのが、私の仕事ですからね」
若田「んだとぉ?」若田が男の方へ近付こうとしたが、警部補は若田の肩をつかんだ。「……主任?」
警部補「……いいんだ若田。……薄々感じてはいたが、やっぱりあの非通知のタレコミは、アンタだったか」
驚く若田。
若田「主任、コイツは何者なんですか?」
警部補「……コイツは政治家や官僚の不祥事を好むフリーライターさんだよ」
若田「フリーライター?」
男は広げていた新聞紙を畳んで、警部補と若田に姿をさらした。
その男は眼鏡をかけており、細身の体型をしていた。
?「ハハハ、私はただこの国の代表面して、税金の無駄遣いをしてる連中を、国民の皆さまにお伝えしてあげてるだけですよ」
男は眼鏡をはずし、眼鏡吹きでレンズを吹き出しながら話した。
警部補「そんな不祥事大好きなお前が、どうして少年犯罪なんかを追ってんだよ?…まさか今度は警察の不祥事でもあぶり出そうとでもしてんのか、百目木?」
その男の正体は、以前にもセンターに接触したフリーライターの百目木(詳しくは31・32回参照)だった。
百目木は眼鏡をかけ直し、ソファーから立ち上がる。
百目木「別に私は黒崎紗理奈に興味はありません。私が興味を持ってるのは、その先なんですからね」
警部補「黒崎の先だと?」
警部補と百目木の目が微かに鋭くなった。
百目木「そう、もしかすると高橋警部補の娘さんや、アナタの先輩である木崎元巡査部長の息子さんの件も、道を辿れば同じかもしれませんよ」
警部補「おっ、おいそれはどういう!?」
若田「主任、ここは病院ですから」
百目木「そうですよ、それこそ税金の無駄遣いですよ高橋警部補。……まあ一つだけ言えることがあるなら、そう遠くない未来、私はこの国のとんでもない大不祥事をあぶり出すつもりです」
警部補「この国の大不祥事だと?」
百目木「ええ、ただ今言えることはそれだけですけどね。それじゃあ私はこれで」
そう言って百目木は会釈をして去ろうとしたが、一度深呼吸をして落ち着いた警部補が声をかける。
警部補「待てよ」立ち止まり振り返る百目木。「大事なことを聞き忘れてた。どうしてあんなタレコミをしたんだ?」
百目木「……通報は国民の義務じゃないんですか、高橋警部補?」
そう言って百目木は去っていった。
警部補「たく、喰えねえ奴だ」
若田「主任、アイツが言った日本の大不祥事って何なんでしょう?」
警部補「さあな、ただ私たちは未来よりも、目の前のヤマのホシをあげるぞ若田」
若田「はい」
2人も病院を去って行った。