治療39か月目 患者としての挑戦(第一部完結編) | 再生不良性貧血とPNHの記録

再生不良性貧血とPNHの記録

50代なかばで発症。幼い子二人を子育て中。
再生不良性貧血の治療ブログがたくさんあることを知り、読ませて頂きこの病気を勉強中。
ただ、化学療法中に始める方は少ないようで、ブログで治療記録を残そうと思いました。
2018年、寛解に至るもすぐにPNHに移行。

PNHについて、解説文を書いてみたいと思いました。

一度公開した前編にかなりの間違いなどがありました。すみません。

昔、ある血液内科の医師にネット上で質問した時に、いろいろ目にした病気の情報を自分が得たもののように書いていたからでしょう。患者として傲慢な態度だと言われた記憶があります。

かなりの誤りや、感情に走って書いたような箇所があり、昔の記憶も蘇って落ち込みましたが、それでも書き直しました。

ゴーマンかましてよかですか(懐かしい)


以下は、書き直しをした前編に、後編を合体させたものです。

間違いもまだまだあるかもしれないので、フィクションとして読んでください。

 

PNH型赤血球の登場 血液中の細胞(赤血球、白血球、血小板など)には細胞としての寿命がありますが、主に骨髄中などで造血幹細胞という細胞から次々に血液細胞が生まれているので、私たちは困ることなく暮らせています。発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、その造血幹細胞が突然変異を起こしてしまい、PNH型赤血球という異常な赤血球が出来てしまう病気です。

PNH型赤血球ってなに? 赤血球は血管を通って、全身のあらゆる筋肉や臓器にくまなく酸素を運んでいます。異常とされるPNH型赤血球も、実はその役割を普通に果たせているので、少しくらいPNH型赤血球があっても困ることはありません。健常者でも微量のPNH型赤血球を持つ場合もあるそうです。

では、異常とはどうのようなもので、どんな時に困るのでしょうか。そこには生き物に備わる免疫というシステムが関わってきます。人間の身体や、身体の中には常に菌やウィルスなどの異物が存在し、繁殖の機会を狙っています。私たちに免疫というシステムが備わっているので、その異物から自分を守ることが出来ます。そのシステムが敵だけを攻撃してくれればいのですが、困ったことにPNH型赤血球は自分が味方であることを免疫システムに示すことができないので、攻撃されてしまいます。異常とはそのことです。「補体」というものがPNH型赤血球に取り付いて、ついには破壊してしまうのです。その症状は溶血と呼ばれています。

 

PNH患者ができること  少ししくらいの溶血ならあまり困りません。もともと赤血球にも寿命がありますし。初期のPNH患者では積極的な治療をせずに経過観察を選ぶ方もいます。年1回など定期的に検査をしていれば多分普通に暮らせます。現在の医療でPNH型血球を減らせる治療方法は骨髄移植などの高リスクな方法以外にありません。むしろPNH型血球は何らかの貧血症状を補うために二次的に生まれて宿主を助けていると見る研究者もいます。

さて、PNH型血球が正常な赤血球に比べて1%を超えて、かつ、血清LDH値が正常上限の1.5倍以上で発症とみなされます。
人間は年齢も重ねるし、自身を取り巻く環境も常に変化させています。身体の中も変化しています。それでPNH型赤血球も何かの要因でまったりと増えてしまうわけです。ここからはPNH型血球を持つ方は気を付けなければなりません。壊されやすい赤血球が増えたことで、たとえば風邪にかかり免疫機能が活発になった時に一気に溶血が進んでしまうことがあります。その場合、貧血症状や疲労感と共に壊れた赤血球の残骸が体内を巡りいろいろに悪影響を及ぼすことがわかっています。特に「ヘム」による腎障害は不可逆的であり、後々に補体阻害剤で溶血をコントロール出来たとしても、ヘモグロビンの回復が伸び悩む場合があります。

溶血による症状で、例えば腹痛もあります。もし、あなたが溶血に気が付かずお腹が痛くなったとしたら、どちらを受診しますか?近所の内科の先生が発作性夜間ヘモグロビン尿症という病気を知っていたら、あなたは幸運でしょう。ですが、幸運だとしても、その内科の先生は腹痛を治すことは出来ないかもしれません。もし溶血によるものだったら溶血が収まるしかないからです。

その不調、その溶血症状が、PNH型⾎球の増加によるものかどうか。経過観察中の見極め方は大事でしょう。

溶血とPNH型血球の量は比例関係ではないらしく、低い量でも溶血が起きえるそうです。また、PNH亢進の見極めなどで、0.01%前後のPNH型⾎球を測れる⾼感度な検査が必要なケースと、通常の低感度な検査でいい場合とがあるそうで、PNHに詳しい見識をもった医師に相談したいものです。通常の検査では陰性という結果が出ることもあるらしく、治療の開始が遅れる場合があります。

PNH型赤血球が増えてきたらいよいよ覚悟が必要です 現在、補体を抑える薬の登場で「PNH患者はもともとの寿命を生きられる」状況になってますが、かつての統計では、PNH患者の予後は5年という結果もありました。日本人患者の統計では生存の平均は32.1年。50%生存(患者数が半分になるまで要した期間)は25年でした。40歳で発症した方々の半数は65歳を超えられなかったわけです。今後は、調べれば調べるたびに予後がのびていくことでしょう。

かつてのPNH患者で、存命期間中の様々なライフイベントや感染などのイベントのたびに症状が憎悪していったという話は聞いてます。貧血は輸血でしのげますが多年に渡る輸血は鉄過剰症を合併します。溶血を抑える薬に副腎皮質ステロイドがありますが副作用は深刻です。症状は緩慢に進みますが、溶血と貧血で耐えることの多いQOLの低い人生になっていったようです。

近年登場の抗補体薬は、予後がのびるし、QOLの高さも期待できますが、その使用開始ではある覚悟が求められます。PNH患者はそこで悩むわけです。
その薬を始めたら(自然寛解する以外は)死ぬまでやめられないと説明を受けます。PNH型血球を減らす治療方法はないし、そのような治療方法ではないので、補体を抑えることは川の流れで言えばPNH型血球を貯留するダムを造るようなもの。「ダム湖」を抱えた人生になります。また、補体を抑えるので感染症リスクが高くなります。
少ない回数の輸血で済むのなら、輸血だけで済ませた方がいいと考えるのは当然です。

悩んでいる間はLDとeGFRの値に注意する必要があります。
LDは溶血のマーカー。eGFRは腎機能のマーカー。貧血症状は我慢できても、溶血で生じる血栓は死亡リスクを高めます。また、腎機能が低下してから抗補体薬を始める場合と、低下する前に始めた場合とを比べると、ヘモグロビンの回復度合いの差がはっきりとわかる統計結果があります。
腎機能の低下はハプトグロビンで回避の期待ができます。もしも悩むなら、その薬を処方してくれるようなPNHに詳しい医師のもとで悩むのいいです。

 

 補体への介入治療が始まったら 抗補体薬を始めれば、多くの方は溶血が収まり、ヘモグロビンの回復が期待できます。ただ、管理としてはヘモグロビン値は一旦おいておき、まずLDを見ます。

・薬の量と体重の関係が間違いなくて、LDが基準値より高い場合。
→何らかのイベントが起きている可能性があります。短期的なら感染症やワクチンの影響が疑われます。長く続くようなら無効造血(MDS)や臓器の疾患などが疑われてきます。血栓も心配しつつ、いろいろな検査もしてみた方がいい。
・LDが基準値なら、そこでヘモをみます。
→ヘモがまあまあなら、よかったということで、そのまま継続!
→ヘモが低いなら網状赤血球(レチクロ)を見ます。

・LDが基準値でヘモが低いならレチクロをみます。
→基準値もしくは低値なら、骨髄不全や腎性貧血が疑われてきます。造血刺激の薬やAAのある方は免疫抑制剤も検討となるでしょう。
→高値ならば血管外溶血などが疑われてきます。この血管外溶血は治療を始めた方はよく耳にするでしょう。

上記の整理に、当てはまらないケースはもちろんあるでしょう。ヘモグロビンの低値で命を失うことは少なく、LDの高値では逆に命を落とす場合がある。リスクを見つけるための整理だと思って読んでください。
LDが高い原因は突き止めるのに時間がかかるかもしれず、その間に血管外溶血(EVH)が起きる可能性も充分にありますし。

また、LDが高ければEVHが否定されるわけではないし、レチクロが高くてもAA的治療をしている人もいますし。

治療の目的  EVHがでてくると、(説明が難しい)補体経路の説明をしないわけにもいかず。
日本補体学会様からお借りした画像です。

図の一番右下が、補体がついにPNH型血球を破壊したところ。その上のC5のところでユルトリミスやソリリス、そしてクロバリマブ(この春販売開始!)という薬が補体を抑えます。
中段のあたりに、C3bという表示が多いですが、実際にC3bは増幅されて異物侵入に対応してます。しかしC5で抑えるものだから、C3bは消費されない。増えた彼らはNH型赤血球に取り付けるので取り付く。取り付かれたPNH型血球はオプソニン化という(嬉しくない機能で)脾臓や肝臓などで処分される。こうしてEVHが起きるとされてます。
それでEVHに悩む方は、C3を抑える薬を検討します。
ところで、第二経路という場所が実は補体が24時間稼働中、エンジンかかりっぱなしのアイドリング状態といわれてます(そこでは補体は水分で活性化という省エネな仕組、PNH患者にとってはこれまた嬉しくない)。それゆえPNH患者はC5を抑えて、感染に気を付けて暮らしていても、ここでも一定の溶血は免れないというジレンマがあります。

このようなことで(そのあたりの補体経路を近位とよび)近位補体阻害薬と言われる薬たちが開発されています。C3を抑えるペグセタコプラン(昨年秋に発売)。第2経路のところのファクターBやファクターDをコントロールする薬も開発中です。
ところが、上流を抑えることの不安はぬぐえません。補体のコントロールを失った時のことを想像してください。平野を流れる川に例えると、上流で堤防が決壊した場合、水が好き放題に平野に広がるのでかなりな広範囲が水浸しになりえます。下流での決壊はそれに比べて広がりきる前に海に達するので限定的です。

今、たくさんの薬が生まれている。光が当たっているという意味でPNH患者は幸運かもしれません。適切な検査とタイミングのいい治療開始や薬のチョイスによって寿命を生きる。明るく暮らす。それがPNH患者を発症した方の治療目的だし、社会へのリターン義務だと思ってます。それにはPNHに詳しい医師や、患者間の経験談が、これまでよりも一層のこと大事になってきていると思う次第です。

 

ここまで、読んでいただきありがとうございました。

間違いや不都合などありましたら、どうかお教えください。