PADME

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人生を豊かに

真実だけを語る

 

 世界にはおよそ200近い数の国があります。そこで話される言葉、言語の数は、驚くなかれ約6,000語あるそうです。けれどもそれだけある言語も、この先10年間で半分以下になってしまうと言われています。それと言うのも英語の様に大きくて強力な言葉がますます大きくなって行く一方で、話し手の少ない言葉はどんどん消滅して行っているからなのです。話し手の数が10人にも満たない小さな言語、動物で言えば絶滅寸前の言語が、アメリカやカナダ、オーストラリアの先住民たちを中心に、世界には沢山ある様です。

 

 こういう現実を目にして、改めて私たちの日常を考えてみると、その有り難みが実感出来ます。一億人以上の人が使う、大きな海の様な日本語の中で、私たちは自由に泳ぎ回って、何時でも誰にでも好きな事を表現する事が出来る恵まれた環境にあります。しかし、何でも言えるからと言って、真実だけを口にしている訳ではありません。

 

 むしろその逆に、何でも口に出来る。その有り難みを忘れ、嘘や心ない言葉、無責任な言葉、自分と向き合わない適当な言葉の数々を漂流させて、その海を日々汚してはいないだろうかと、反省させられるのです。お釈迦さまは常に弟子に対して言葉を選びなさい、そして真実(まこと)を語りなさいと戒めました。お釈迦さまの説いた『法句経』という経典があります。その一節に「粗(そあら)ならざる義(わけ)を含める 真実(まこと)を語りその言葉によりて いかなる人をも怒らしめざるもの 我かかる人を婆羅門と呼ばん」とあります。

 

 お釈迦さまは、大きな心を持った人です。決して粗雑な言葉、乱暴な言動をしてはならないと教えました。正しき事であっても粗(そあら)な言葉ではなく、真実を語り、真実の心で接しなさいと説いたのです。だから怒ってもならないし、人を怒らしめてもいけないと訓戒します。それが婆羅門、即ち聖者なのだと言うのです。筆者が修行中、指導して頂いた故足立大進老師は、かつてマスコミのインタビューを受けた際こう言われました。

 

 「俺の頁は真っ白にしとけ」我が身に置き換えるとどうでしょう。何でも言える筈の恵まれた条件にある私たちにとって、この戒めは強く響くものがあります。最後に老師にならって質問させて貰います。もし私たちの日本語が明日滅びて無くなってしまうとしたら、あなたは何を伝え、何を話すでしょうか?

 

*婆羅門(ばらもん)…古代インドで最上位に置かれた司祭階級

*足立大進老師…鎌倉円覚寺管長・円覚寺専門道場師家(しけ=指導者)

 

萬善寺