僕は躊躇した。
ここまできたはいいけれど、もし家に帰ることができなかったらと考えると、足が前に進まない。
しかし僕は見張りのおじさん達が去っていった方向を見て目を見開いた。
かなり遠いけれど、人影が見える。
さっきまで見えなかったのに。
もしかしたらさっきの人たちが戻ってきたのかもしれない。
僕は自分の格好をみた。
目立つ黄緑の上着に、これまた目立つオレンジのズボン。
僕の格好は遠くからでもよく見えるだろう。
僕は逡巡した。
そして僕は、前に進むことを選ぶ。
ダッシュでゲートから外へ飛び出し走た。
そうだ、僕は前々からチャンスがあれば外に出たいと思っていたんだ。
ここで後込みするなんて、なんて度胸がないんだろう。
きっとあのまま家に帰ったらずっと後悔したに違いない。
あの扉に鍵がかかっていたとしてもきっとどうにかなる。
今は飲み水も食料もきちんとあるんだ。
しばらくなら野宿したってかまわない。
僕は走りながらそう考えた。
そうすると自然と体が落ち着き始める。
だいぶゲートから距離が離れていることを確認して、僕は速度をゆるめた。
さっきの扉がちゃんと開いていたことからして、オレンジの変な生き物のことは信用できそうな気がしてくる。
そうだ、あのオレンジが言ったように勇者になるんだったら、野宿くらいできなくてどうするんだ。
冒険者というのはいつどんなときでも慌てずに、どっしりと構えていなくちゃ。
こんなことじゃ魔物と戦えるはずがない。
今はしっかりと町の外を見ておこう。
そして、オレンジ色の生き物が言っていた、僕の仲間を捜そう。
そこで、僕は一つあることを思い出した。
そういえば、あの真っ白な場所から家に帰るとき、僕は手の平に痛みを感じた。
僕は少し緊張しながらも、自分の手、右手の平を恐る恐る見る。
すると、黒い毛に覆われたピンクの肉球の真ん中に、何か文様が刻まれているのが分かった。
「な、何これ」
オレンジ色で、淡く光っているように見えるそれはとても奇妙だった。
四本足で一つ目の、タコのような生き物が頭から何か波動みたいなものを出しているような模様。
いや、よく見ると四本の足は腕と足に見えなくもない。 その手足の先からは何かが飛び出している。
これは一体何を表しているのだろう。
今日の朝はこんなものなかった。
だからこれはさっきオレンジの生き物と邂逅したときについたものに違いない。
これがもしかすると勇者の証なのだろうか。
僕は手をおろした。
もしさっきの文様が勇者の証なら僕の仲間も同じものを持っているに違いない。
あの模様を目印に探してみよう。
しかし本来町の外に人なんて歩いているはずがないんだよなぁ。
あのオレンジの生き物はまるでゲートの外に人がいるような口振りだったけど、そんなことあるのか?
しかも僕の仲間は6人だって話じゃないか。
だったら6人も人がこの辺りをうろうろしていってことでしょ?
そんなこと本当にあるのかなぁ。
見渡す限り砂地。
所々草が生えていて、遠くには木々も見える。
生き物の姿はなくて、空にも何の姿もなく天気はからっと晴れていた。
僕は腕をぐるぐる回して体をほぐしながら歩く。
外は魔物が出るんだ。
もし何か出たら自分で身を守らなくちゃ。
僕は辺りに注意しながらも、先へ進んだ。