夏の陽光が眩し過ぎて、ふと空を見上げると目眩すら覚える。道行く人々は皆、高い不快指数を隠そうともせず苦しげな表情だ。電車の中など不快指数の巣窟なのだが、乗らないと目的地に行けないから仕方がない。
「…ったく!自分で行ってよね!こんなお役目なんて、サイテー。」
少女は足早に駅の構内を歩きながらつぶやいた。偶然それを耳にした男が思わず少女の顔をしげしげと見つめる。
かなりの美少女だ。くっきりとした鼻の稜線、形の良い口元、瞳はどこか小悪魔的な光をたたえ一際その顔立ちに華を添えている。ただ、残念ながら少女はその自分の美貌に頓着していないようだが。
彼女は手に何か筒のようなものを携え、真っすぐ駅の改札口を目指し、ほとんど小走りに近いスピードで歩いている。やはり時折すれ違う度に誰かが見惚れている事にも、慣れっこなのだろう、意に介さず目的地であろう場所に向かっている。
ジーパンにTシャツというシンプルな出で立ち。所持品はポシェットのみ。それでも人目を引いた。
後ろから背の高い少年が後を付けているのか彼女と同じ方向を少し遅れ歩いている事にも気づいていない。それほど彼女は急いでいるのか怒っているのかのどちらかなのだろう。
後ろの少年が追いついた。どうやら知り合いらしい雰囲気が見て取れた。
肩を叩かれ、少女はかなり驚き振り向いた。
「な、何よ!?あんた!…え?平手君!どうしてここに?」
「サボり常習犯を取り締まりに来た。風紀委員としてな。」
「ちょっと待ってよ!パパの届け物を事務所に…後10分しか!」
「いい加減にしろ小西。3日も学校に来ないとはどうなってる?マジで退学になるぞ、ヤバいだろう。」
小西と呼ばれた少女は、平手君と呼んだその少年を優しい目で見つめながらも、また目的地に向かい今度は走り出した。
「おい!小西光歩!」
地味ながら精悍な風貌のその少年は、不意をつかれながらも少女を見失いまいとその後を追おうとする。
「明日は行くわよ!これでバイバイ!」
「あ!おい!」
人混みに巻かれ、少女を見失った彼はその場から去ろうとしなかった