しおりは走った。タクシーが渋滞に遭い、もうスタジオの近くだったので途中で降りたのだ。里見裕一はまだいるだろうか。いなければどうすれば?何かあった。斎藤の行方が分かったのかもしれない。まさか1人で助けに行った?だとしたら・・・。

 

「里見裕一。いてよ、絶対に!」

 

 

 

「斎藤を出せ、寝てるなら叩き起こせ!電話に出すんだ!」

 

「まあまあ、そう怒るな。彼には寝ていてもらった方が都合がいいのでね。里見さん、こちらまで来ていただくことはできるかな?」

 

「まず斎藤を電話に出せ、無事かどうか確かめたい。話はそれからだ。」

 

「・・・分かりましたよ。」

 

その時、裕一のいるスタジオの控室のドアをドンドン叩く音が聞こえた。

 

「里見裕一!」

 

しおりだ。涼ジュニアを置いて来たな。

 

「里見裕一!よかった、いてくれて。」

 

しおりは息を切らしながら、裕一の腕になだれ込み、裕一のスマホを奪い取った。

 

「しおり、何を?」

 

「里見裕一を奪おうなんて100年早い!あんたたちの思い通りにはならない!この星から立ち去れ!」

 

「ちょっと待て、斎藤が!」

 

しおりのダークバイオレットの瞳が光った。

 

「あ・・・!」

 

裕一のスマホの電源が切れていた。通話の向こう側ではたぶん何かが起こっただろう。斎藤和彦はどうなるんだ?第一、異父姉の光希に怪我をさせた真犯人を突き止めなければいけないのだが、せっかく彼らと取れたコンタクトはどうする?

 

「しおり。」

 

「大丈夫。里見裕一、たぶんうまくいった。」

 

「何をしたんだ?俺にはさっぱり分からない。それに[力]を使ったね?斎藤は彼らに捕まっているんだぞ。どうなるんだ?」

 

「斎藤さんは帰って来る。犯人も自首する。」

 

「そう仕向けたのか?」

 

「そう。うまくいった。見てて。とにかくウチに帰ろうよ、涼ジュニアが起きないうちに。」

 

時計の針は午前5時を回っている。裕一が彼らの着信を受けたのはまだ夜中だったはずだ。こんな時間になっているはずがない。しおりの仕業に違いないが、時間の流れまで操作できるのか。だとしたら、この地球で、日本で生きていけるのか?

 

裕一は少し間を置いて、しおりの肩を抱きかかえた。

 

「家へ帰ろう。もうすぐ明るくなる。涼ジュニアが起きてこないうちに戻ろう。」