斉藤和彦が里見家の玄関のドアを開けるのと、音無が里見家のチャイムを鳴らしたのは同時だった。


「うわっ!あ!・・・もしかして、音無先生ですか?・・・幸?」


幸も音無の後ろにいる。顔色は蒼白で、加えて落ち込んでいるように見えた。


「斉藤君、久しぶりね。すっかりいい男になって。奥様をお連れしました。」


「幸、大丈夫か?例のものは?取り戻せたか?」


「斉藤君。彼女をすぐ病院に連れて行ってあげて。」


「え?」


「たぶん、妊娠中毒症よ。」


裕一も話し声を聞きつけ、玄関に降りてきた。老婦人の顔に、懐かしい面影を見る。


「音無先生!お久しぶりです。」


「里見君!いつもキミの歌聴いてるわよ。立派になって・・・わが校の誇りだわ。」


「ありがとうございます。」


「そのキミにも、よくない知らせがあるのよ。」


「は・・・?」





平日とはいえ混んでいる。待ち人数は14人。まだまだ順番は来そうにない。大学病院の待合室で、幸の身体を支えながら、斉藤は頭を抱えずにはいられなかった。

マスターCDは見つからず、しおりは消えてしまった。おまけに、幸が危険な状態かもしれない。

深いため息をひとつつくと、よりかかっていた幸がつぶやいた。


「和彦さん。ごめんなさい。何の役にも立てないで・・・」


「言うな。お前は自分と生まれてくる子供のことだけ考えろ。後のことは任せろよ。」


「しおりちゃんは、CDを取り上げられたくなかっただけだと思うわ。」


「分かるものか!だから俺は、あの子が里見家で暮らすのが気に入らなかったんだ。」


「斉藤さん。斉藤幸さん。」


ようやく順番が来た。意外と早い。幸の容態からして、早目に呼ばれたらしい。


「さあ、診察室に入るぞ。幸、立てるか?」





「俺は信じてます。しおりは必ず帰ってきます。あのCDも。」


「小田切さんが持ってなかったとすると、誰かに手渡した可能性があるわね。私は下校時間まで、同じクラスの子供達の所持品検査もやってみます。誰かが持ってるはずよ。」


「先生。」


「何?里見君。」


「何もしないでください。」


「でも、大事なCDだって聞いたわ。なかったら困るんでしょ?」


「大丈夫です。しおりが僕にちゃんと返してくれます。」


「里見君・・・。」


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