心理学入門(5)前頭葉と偏桃体と気分障害、セロトニン再摂取阻害剤とSSRI、心理社会的治療と認知行動療法、自己否定と自己帰属

 

(訳注)うつ病気分障害の治療法の話をしている。その前にこの気分障害には脳の前頭葉と偏桃体と海馬と前帯状領域の調整不全が大きくかかわっている。その調整不全を引き起こしているのが神経伝達物質のセロトニンのシナプスでの取り込み不全がかかわっている。古くはモノアミン酸化酵素阻害剤や三環系抗うつ薬などが使われていたが副反応が問題だった。現在ではセロトニン再摂取阻害剤やノルエピネフリン再摂取阻害剤などが副反応が少なく有効な治療薬として使われている。こういった薬物療法と現在では心理社会療法として認知行動療法が併用されている。認知行動理論によればうつ病や気分障害には認知や思考の自己否定的なネガティブな回路が患者に埋め込まれているとしている。本来認知には正か負かだけではなく中間のグレーエリアがほとんどなのに、常に自己否定や自己帰属に判断が傾きやすい。そこである研究ではネガティブ思考と非ネガティブ思考の人のうつ病発生リスクを調査した。圧倒的にネガティブ思考の人がうつ病リスクが高いことが判明した。そこで認知行動療法はうつ病の根本にある自己否定や全てを自己帰属させる考え方にその思考パターンの根拠を明確にさせることによって自己否定的判断の引き金を引くきっかけを本人に気づかせる方法を治療法として取り入れた。その結果薬物療法と補完することで再発リスクを35%まで軽減した。

 

 

 

 

多くの脳の部位がその調整不全や機能不全によって気分障害に関係している。多分知っていると思うが、前頭葉皮質は(4100)脳の部位としては高度の複雑な命令や思考と問題解決や目的志向型の行動などに深く関与している。うつ病を持つ人はこの前頭葉皮質の働きが低いことで、目的志向型の行動や問題解決の計画や感情の抑制へその集中力の困難さがその役割を果たしている。脳の部位で偏桃体は感情的情報処理をしている。気分障害の人は偏桃体の感情情報への過剰反応が見られる。これはまた双極性障害にも当てはまる。海馬と言う脳の部位は記憶と集中に深く関与している。また慢性のうつ病では海馬の萎縮が見られる。これが多分集中力や注意力の問題を引き起こしていると考えられる。更に最後に(4204)前帯状領域と言われる脳の部位は多くの異なった活動をしているが、気分障害の患者では特に行動の選択へのストレスに極度の不安を感じている。前帯状領域での調節異常がその選択と上手な行動の複写や行動が上手くいかなかったときの行動の変化でのストレスへの適切な反応に困難さを引き起こしている。

 

生物学的理論からも異なった薬剤がこの気分障害に使われている。古いクラスでは二つの分類があり、モノアミン酸化酵素阻害剤と三環系抗うつ薬がある。三環系剤は今でもある程度は使われている。これらは比較的有効な薬である。およそ60%の人が三環系剤には良い反応を示している。しかしこれには多くの副反応が見られ過剰摂取は致命的になる。(4306)他の代替や薬も開発されている。薬剤で市場で扱われているのはセロトニン再摂取選択阻害剤SSRIである。これはパキシルやプロザックと言われている薬である。これらのうちアメリカではプロザックが1987年に市場に導入され、うつ病や不安症など数多くの障害の治療のための市場を占有した。これらは古いタイプの阻害剤と比べてもっと有効と言うわけではないが、副反応が少なくそれの耐えるのも容易になった。

 

もっと最近ではセロトニン選択剤ノルエピネフリン再摂取阻害剤が生まれた。これらの薬剤の機能はセロトニンの再摂取やセロトニンをニューロンに送り戻す働きをしている。シナプスでの神経伝達物質をより多く作るようにしている。(4401)これらはかなり合理的な有効な薬剤で相当な数の反応しなかった患者に速効があった。これまではその薬ができる前は数多くの薬剤を通して循環しなければならなかった。リチウムも双極性障害への薬剤の選択の中に入っている。これは数多くの異なった神経伝達物質を安定化させることで気分障害の揺れを安定させるものである。リチウムが問題なのは数多くの副反応があるからである。また妊娠中の女性には胎児の成長に致命的な危険を伴う。続けることには非常に難しい問題がある。多くの胃腸の副反応が出ることまたリチウムを抗うつ剤として続けると躁症には有効に働くのでうつ病の治療には適さない。(4501)最後に現実感覚を失った人への抗精神病治療薬にはかっては現実感覚を失った人も気分障害として扱われた。

 

ここからは心理社会的治療の話に移りたい。認知行動治療はAaron Beckのうつ病の負の認知理論に基づいている。Aaron Beckはペンシルバニア大の精神科医でこの分野の一定の研究をしてきた。Beckによればこれはうつ病だけに適応されるものだとしている。双極障害には適応していない。うつ症を持った人は自分自身や将来や世界にネガティブな否定的な見方をしている。彼はこれを「ネガティブ認知三角形」と呼んでいる。このネガティブ認知三角形は特定の劣勢やバイアスの認知によって増長される。うつ症の人はその考え方に多くのゆがみが生じている。「オールオアナッシング」的思考は全てが善か悪かの思考である。(4605)彼らはその中間のグレイエリアを見ようとしない。そこには「感情的理由」があり、負けと感じるとすべては敗者になる。愚かだと感じると愚か者になる。

 

そこからうつ症の人には自己非難が見られ「個性化」してゆく。これらの思考の歪曲が、状況を歪曲して解釈することになる。その自己と将来への絶望的な否定的な見方を一般的に増長させる。うつ症の人はネガティブな事象を内的なもののせいにして自分を非難することによって安定化させる。悪いことは永久に続くとして包括的に見る。悪い事象は人生の多くの分野に影響するとみる。そしてさらにうつ症と人生は恐怖だという一般的仮定を増長させる。(4701)これらのネガティブな認知の形がうつ症の原因だと予測する認知理論の証拠として、そのベストな予測の研究がテンプル大とウイスコンシン大の共同研究で大学1年生を対象としてこのネガティブ型認知あるいは帰属型認知の研究が行われた。しかしこの学生たちは決してうつ兆候の経験があったわけではなかった。そこから次の2年間追跡調査した結果、このスライドの棒線グラフで赤い棒はネガティブ認知型でその後の2年半で重大なうつ病に発展したものの割合と非ネガティブ認知型から発展したものの割合を対比したものである。見て分かるようにこの二者ではかなりの違いが見られた

 

ここから予想されるのはこれらの特徴はうつ病のリスクを予測するものである。次に、Beckの理論をもとにした認知行動治療法ではその主要なステップはその人の中にある引き金を引くネガティブ思考を見つけだしその人にその解釈の証拠は何かを尋ねることによって、その状況を見てほかに道がないかどうかそういった思考にチャレンジするのを助けることから(4803)始まる。もし本当に悪いことが起きたら如何にその状況を上手く処理するかを考える。つまり治療の専門家は患者がネガティブな信念や仮定を認識するのを助けその真の価値に挑戦しそのうつ兆候に関係する環境的局面を変えることを手助けする。合理的な思考へと挑戦するだけではなく実際にその人に人生の中でうつになった悪いことが起きた時に、その環境を変えるより積極的な問題解決法を手助けする。彼らはまたその人にその気分をうまく処理してうつに転落しないような方法を教える。

 

この認知行動治療は非常に有効なものとして認められある意味で薬物療法と同じように認められてきた。(4901)最近の研究では240人の重篤なうつ病障害をもつ患者に、4か月の間認知行動療法とともにSSRIのPaxilを投与した。8週間して砂糖錠を投与したプラセボ(偽薬)グループはスライドの赤とCBTグループを黄色と比較した結果相対的にPaxil グループがわずかだがCBTグループを上回っていた。しかし16週になるとPaxilグループとCBTグループはそのうつ状態から抜け出した割合が絶対的に同等となった。その結果両方とも60%に人がうつ病ではなくなった。認知行動療法で幾度も見られたことの一つはうつ状態から抜け出しただけでなく将来的発症を予防したことを見れば患者は新しいストレスが起きた時にその処理のスキルを身に着けたからである。同じ研究で彼らは患者をさらに12か月追跡調査した。

 

Paxilグループの半分は薬物療法を続けてうつ病を予防するかどうかを見るために医薬品としての規定量のまま残し、別の半分はプラシボを投与した。プラシボを投与したグループをスライドで見ると、うつ病としては残念なことだが、薬物を投与してうつ状態から抜け出した人は何の精神科療法を受けずに薬物を止めると再発する可能性が極めて高い。240人のグループのうち積極的な薬物療法を止めた人の約80%が再発した。つまり、この人たちは何の認知行動療法を受けなかった人である。Pixilだけを続けた人のうちでは50%が再発した。しかし認知行動治療を受けた人の中ではたった35%しか再発しなかった。(5101)この研究で分かったことは何度も何度も繰り返され、いわばCBTはうつ病の再発の可能性を劇的に減らすことが分かった。CBTがどんなものかその雰囲気でもわかってもらうために治療専門家が実際にAaron Beckの娘と彼の承継者が認知行動治療の実践と発達の役を担った

 

彼女は実際にCBTのデモンストレーションをしているがこれは演技であるがかなり現実的で男性自身のネガティブな認知に挑戦する助けをしている。この人は最近失業して事実うつ症を発症したものである。さてこのビデオはここまでにして彼女のしていることについていくつかのコメントをしたい。(5201)彼のネガティブな思考そこに落ち込むことへの挑戦を生み出してもらおうとしている。CBTの主要な前提は有効な治療の活動中だけではない。事実はそれはマイナーな部分で、その治療期間の活動の時との間にその人が実践したことが重要である。つまり彼女がしようとしているのは結局彼が落胆したり落込んだりしたときに彼を一連のフレーズを自分に向けて言うことで手助けをしようとしている。彼女はまた彼にネガティブな感情とネガティブ思考の引き金を引く状況を予想したいわゆる「見越的処理」によって結果的に適時にその時に彼にそれらと戦う方法を身に着けるようにしている。

 

認知行動療法は非常に組織的、比較的短期になるように企画されている。他にもうつ病の精神科療法として主要なものに対人関係療法がある。これは自己のネガティブな視点と自己と対人関係の期待は養育した親がこのネガティブな視点を植え付けたという理論に基づいたものである。(5305)そこで必要なことは患者にそのネガティブな自己否定を理解させ、いかにそれが過去の対人関係にルーツを持っているかを理解させる手助けをすることである。この対人関係療法は認知行動療法よりも組織化されていないし、より過去に焦点を当てたものである。CBTは現在に焦点を当てたもので直面している現在の状況に焦点を当てそれと戦いそれを上手に処理する方法を発展させるものである。IPT対人関係療法とCBTの認知行動療法を比較したわずかな研究はあるが、CBTよりIPTの方の研究は圧倒的に少ない。しかし一定の人には積極的な代替療法である。特にそのうつ病の再発が対人関係のテーマにつながって何度も繰り返された場合には検討しなければならない。うつ病についてよい知らせは(5401)代替的療法があることである。また数多くの薬物療法があるとともに少なくとも二つの精神科療法の研究が非常に役立つ。人はそれを選択しうつ病のままである必然性はなく該当する療法を見つけるべきである。