クラスNo.1のイケメンA。
髪をツンツンと尖らせ、日焼けした肌にギャツビーのオイルを塗りこんで爽やかな匂いと笑顔を教室中に振りまいている。クラスにいるちょっと悪そうな連中ともうまく馴染んでいるし、体育祭ではトラックを疾走して自慢の脚力を周囲に見せつける。
もはや生きている世界が違うのだと嫉妬すら抱けないAの顔を、男なら誰しもひとりくらいは想い描けるはずである。
女子たちはイケメンAにキャーキャーと黄色い声を上げているが、しかし、実は彼女たちの心をいつでも惹きつけてやまないのは、窓際で眠たそうに肘をついている、名前すらおぼつかない誰か(仮に〝X〟と呼ぼう)であることを知っているだろうか?
考えてもみてほしい。
普通、恋をしている相手には少なくない独占欲を抱くものだ。女子たちが集って「イケメン♪」「ほんとかっこいいよね〜♡」などと言い合っているとき、それは、ジャニオタが推しメンを崇めるときの心境に近い。
彼女たちは、推しメンやイケメンAを独占するのではなく、むしろ彼のことが好きだという仮の心境を公言し、共感を得ようとすることで、自分のアイデンティティの拠り所をつくっている。
「キスマイの玉森くんのことが好き」「イケメンのAくんが好き」という属性を自分に与え、ときには彼がいかにかっこいいかを周囲に認めさせることで、世界やコミュニティ・カーストの特定の位置にきちんと収まろうとしているのだ。
それは、本質的には恋とは何の関係もない。
誰かに恋をしているとき、人はその心境を赤裸々に告白することに抵抗を覚える。もちろん、自分の恋の対象を他の誰かが自分と同じような眼差しで見つめることには嫌悪を覚えるものだ。
女子たちが本当の意味で恋をしてしまう相手は一般的にはイケメンと言えないかもしれないし、そもそも彼のことをよく知らない場合も多いだろう。それなのにどういうわけか彼のことが気になって仕方がない・・・。自分と同じような恋心を他の誰かに抱いて欲しくない・・・。恋とはそういうものである。
恋の本質の一側面は「相手のことがわかりそうでよくわからない」にあると思う。
少し脱線するが、『名探偵コナン』を例に考えてみたい。
僕たちの多くは『名探偵コナン』を〝面白い〟と思っている。ここでいう〝面白い〟とは、「続きが気になる」「飽きない」という意味でとらえてもらえるといいだろう。
たとえば1時間半のコナンの映画を観ていて、それを始めから1時間観た後に「面白くないな・・・」と映画館の席を立つ人はひとりとしていないはずだ。それまでの1時間で犯人やトリックをほのめかす伏線が散りばめられ、映画の終盤でそれらが明らかにされることがわかりきっている。
コナンの映画におけるちょうど1時間時点は、もっともモヤモヤしながら、もっとも〝面白い〟と心躍っている瞬間だろう。
一方で、映画を最後まで観終わった後に、もう一度その映画を観たいと思う人は少ないはずだ。ある人は明かされた犯人やトリックについて翌日にはきれいさっぱり忘れ去っていて、「面白かった」という抽象的な記憶だけを残されているかもしれない。
何が言いたいかというと、人間は「わかった」瞬間(=コナンの映画を観終わったとき)に対象への興味を失い、「わかりそうでわからない」瞬間(=コナンの映画の開始から1時間時点)にもっとも感情、つまりは恋心をくすぐられるのだ。
恋愛において、相手が自分のことを好きなのかどうかがまだ判明していない、探り合いの時期が一番楽しいという人は少なくない。
もちろん、〝まったく理解できないもの〟には人間は興味すら抱けない。『名探偵コナン』にしろ、まずは大人なら1800円を払って映画を観始め、1時間時点まできちんと座席に座ってストーリーを追うという多少の忍耐を要するフェーズが必要である。1時間時点まで映画を観続けることで、ようやく興味の地平に足を踏み入れることができる。
恋愛も同じで、例えば同じコミュニティに属していたり、年齢が近かったりと、何らかの共通項があることが、恋心は芽生えさせる条件になる。
そして、同コミュニティ内で「わかりそうでわからない」という自己のブランディングにもっともうまく成功しているのがまぎれもなく窓際系男子である。
クラスNo.1のイケメンAは、彼の人となりがわかりやすすぎるがゆえに、それ以上彼のことを知りたいという欲望を多くの女子は抱けないのだ。
彼は崇められる対象ではあっても、恋をされる対象ではない場合が多い。
窓際系男子はモテる。
彼らは、どうしようもないほどの虚栄心を内面に隠しもちながら、それを周囲に悟られないよう〝戦略的に〟ミステリアスな自分を演じているからだ。
傍目には、ポーカーフェイスで何を考えているかわからない。いつも眠そうで、上昇志向など1ミリも持ち合わせていないかに見えて、少し話をすると意外にも彼が読書家の物知りだという事実に気付かされる。無気力系男子の最大の武器は、ギャップを使いこなすスキルにあると言っていい。
そして運動神経抜群で顔がかっこいいイケメンAに群がっていた女子たちのうちのひとりが、ふと、「わたし、実はXのこと好きかも・・・」などと口走った瞬間に、みんな痛いところをつかれたとばかりに冷や汗を滴らせて硬直する。
窓際系男子は、女子たちの潜在意識下で彼女たちの恋心をくすぐってきたため、ひとりの女子に恋心を自覚させることに成功すると、一気に多くの女子からの視線を集め始める。
このブログは、クラスNo.1のイケメンAになれないが、Aよりモテたいと願うすべての男子諸君のために描かれている。コミュニティ・カーストの上位に入れないなら、彼らとはまったく違う次元で勝負をしなければならない。そして、それは可能である。
このブログは、Xへの招待状である。
最後に、Xになることが必ずしも豊富なセックスに恵まれることにつながるとは考えないでいただきたい。あえてセックスをしないことで自分のミステリアスさをより深いものにし、他の単調な男とはまったく違う印象を女子諸君に抱かせることもときとしては重要である。
真の窓際系男子になるには、性欲を自制する忍耐と知性も必要だ。
あくまで、多くの女子たちを(あるいは同性をすら)蠱惑すること、魅力的な人間として自分をブランディングすること、を目的としていただきたい。