画廊の奥で穏やかな表情を浮かべながら目を閉じる彼を ひとりで見に行った


陽に照らされる横顔はあまりにも穏やかで 彼を知る人は、「これ、本当に彼?」とか「頼んで撮らせてもらったの?」とか聞く始末である

無論正真正銘これは彼で、僕が窓枠にもたれかかる彼を勝手にファインダーに収めた

第一「撮らせて」なんて言ったら彼はきっとふざけて、得意のお色気ポーズでも取っていただろうな、と考えながら口元を緩ませる


自室に戻り PCを立ちあげると 僕はおもむろに 「暁」と検索バーに打ち込んだ



「暁 あかつき、明け方、夜が明ける頃」



彼が使っていたPCに表示された文字を指でなぞり、応えるはずのない彼の名を呼ぶ



「君の名はすべてのはじまりを意味してるのになんでこんなに悲しい響きなんだ、アスラン」


嗚咽まじりの声は、だれにも届かない




少し前に、シンが言ってた、
僕が棒高跳びでスランプになった頃、だれも僕の背中を押してくれるひとはいなかった。伊部さんが来て、その役目をすこし請け負ってくれた。アメリカに来て彼に出会ってからは、逆にぼくが彼の手を引っ張っていたけれど、今となっては手が離れてしまって、またひとり、歩けない。僕はそこから進めないで暗闇の中を佇んでいる、と。



たしかにそれは的を得ている、と思う。




シンは続けて、「思い出に囚われるな、思い出なんて持っていても辛いだけ」と言った。


でも僕は、彼が、彼とその仲間が、(彼の言葉を借りれば)この"ゴミ溜め"のような世界を精一杯、目いっぱい生きたことを せめて僕だけでも覚えていよう、覚えていたいと思う。


「オレが怖いか?」と聞く彼の顔も、かぼちゃを怖がる表情も、嘘をつく時の驚くほど柔らかな雰囲気も、ぼくを揶揄うしてやったり顔も、だれかを突き放す凍りつくような冷たさも、全部、彼なんだ。



シンはお前のせいじゃないとかなんとか言ったけど、ぼくは彼の死にはぼくの起因するところがかなり大きいと思っている。自覚していないと思っていたとか嫌味を言われたこともあったけれど ぼくはちゃんと分かっていた。じゃあなんでさっさと彼のもとを去らなかったのかなんて聞かれるとそれは痛いけれど 強いて言うならぼくたちは一緒にいないと駄目だったんだ。ましてやあの状況で、離ればなれにされてしまったらきっとふたりとも駄目になっていた。




嬉しいことに、シンは少しずつ前に進み始めている。彼とおなじ名を持つ伊部さんの姪と手を取り、少しずつ、少しずつ。


僕がすこし背中を押せたんじゃないかな、と思っているけれどきっと彼に自惚れてんじゃねえよとか言われそうだから口には出さないでおく



この暗闇も、何年もいると居心地がいいものだよ、アッシュ。

はやく迎えにきてほしいけど、もうすこしこのゴミ溜めの光と、そして闇を、自分ひとりの目で見たいから。


そちらに行くときには、是非案内役をつとめてほしい。でも君が来たら、また争いごとになりそうな気がする。それで君はぼくを見つけられないかも。








そうだ、目印に、ぼくはかぼちゃの面を被っていることにしよう、