中国の悲しい風(21話) | 体幹ダイエット!人生を変えた7つのポイント

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中国の悲しい風(21話)

※7の付く日にこの小説を掲載しています。

ようやく、お喋りが一段落したところで窓の外を見た李華連が、突然すっとんきょうな声をあげた。

前編 
四・恋(その2)

「ほーら、見て見て。」

私が窓から外を見ると、

「ねっ、言ったとおりでしょう。」

私には何のことだか解らなかったが、李華連は合点がいったように、

「ほら、ね。私の言ったとおり、こっちの席で良かったでしょう。」

私達がバスに乗ったとき、先に乗った私が進行方向の左側の席に座ろうとした。

すると、李華連が私の腕を取って、
「京ちゃん、こっち、こっち。」と、言いながら右側へ引っ張ったのだった。

足元のもつれた私は、李華連のほうへ横向きのまま倒れそうになり、咄嗟に彼女の肩に手をつく格好になったものだから、中腰で席に座ろうとしていた彼女は、そのまま椅子にドスンと座り込んでしまった。

すると、李華連の肩にかけた私の手が滑って、今度は上体が覆い被さるように彼女の頭にぶつかりそうになってしまった。

辛うじて座席の背もたれを掴み、制止することが出来たが、私は李華連の頭の上から彼女を見る格好になっていた。

「ごめんなさい。大丈夫ですか。」

李華連が咄嗟に上を向いて、私に謝ってきた。

「あっ、大丈夫、大丈夫。」と、言った私の直ぐ目の前に李華連の小さめの顔があった。

上を向いたからか、李華連の目は大きく見開かれ、黒い瞳の中に自分の顔が立体的で鮮明なシネマカラーのように映っていた。

その顔の視線は私に向けられ、まるで鏡の中の自分が私を見ているようであった。
私はそれを凝視したまま、不思議な感覚に陥った。

李華連の瞳の中に自分の顔が映っている。
そこに映る自分の瞳にも李華連が映っている。
だが、それはもう一人の別の李華連であって、その視線が自分の瞳を通り越して私に向けられている。

そして、此れ等全ての視線がひとつの線上に重なり、もう一人の李華連の視線を糊塗して曖昧にしている。そんな感覚であった。

それは、私が李華連を見る度に募らせていった好意に比例し、無意識のうちに彼女の虚像を、それも、今のように理知的で明るく、時折子供っぽさを見せる李華連とは異なり、したたかな妖艶さを持ち、ずる賢く淫らな雰囲気を漂わせる女性の虚像を、潜在意識の中へ蓄積していたのではなかったか。

そして、創り上げられた虚像がその存在を、今はっきりと私に告知している。

換言するならば、男性が女性に抱くある種の性的な欲望や、自分が支配し変えていきたいといった男性の持つ征服欲の喜び、こうした人間の潜在的な感情が、李華連に対して私自身の中に芽生えていた事を示しているのではないか、と思ったのであった。

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