中国の悲しい風(4話)
前編
一・瓜
私達は、つい三ヶ月程前に一年半ぶりに再会したばかりだった。
私が以前、仕事で大連を初めて訪れたとき、私の滞在しているホテルに迎えに来てくれた仕事先の関係者から、通訳として紹介された中国人の女性、それが李華連だった。
李華連は、背の高い女性だった。
紺色のスーツから覗く白いYシャツが、キャリアウーマンである事を強調しているようだったが、それにひきかえ女子学生が履くような、底が浅く黒い厚めの革靴を履いていた。
紹介されたとき、私の前に進み出た李華連の目線の位置が、ほぼ同じ高さである事に軽い驚きを覚えた。
もしも、ハイヒールを履こうものなら、少し見上げる格好になっていただろう。
たぶん女子学生風の革靴は職業柄、女性としての遠慮だろうと感心しながら、私は李華連の何気ない気遣いに好意を感じていた。
また、李華連は端正な顔立ちをしていた。
背の高さに比べて少し小さめの顔に、細い顎をしているのが印象深く、その細い顎が話をするとき上下に活発に動いて、それが唇を形作るかのように、はっきりとした発音で話をしていた。
時々、話の途中に小さく笑うことがあったが、隙間無く横一列に規則正しく並んだ白い歯が更に印象を深くさせ、彼女の魅力を増しているような気がしていた。
李華連の仕事は三日間だけだった。
私は三日目の昼食後、何となくこのまま李華連との縁が切れてしまうのを惜しんで、仕事先の関係者に日本語のできる者がいなかった事を幸いに、彼女に思い切って土産物を買う案内をして貰えないだろうかと、話をすることにしてみた。
それまでは、食事の時や休憩時間に雑談程度の話はしても、あくまで仕事の関係上でしかなかったからか、私の唐突な申し出に李華連は少し驚いたようであったが、地理に不慣れな事も手伝って、「解りました。」と、言って引き受けたあと、「仕事ではありませんよ。」と、小さく笑いながら、ビジネスではないことを教えてくれた。
「ありがとうございます。都合のいい日をあとで教えてください。」
私は心なしか、胸が高鳴っていくような気がしていた。
李華連は、通訳の仕事が終わるその日の帰り際、私に近づいてきて型どおりの挨拶をしながら、
「土曜日であればいいですよ。」と、そっと耳打ちしてくれた。
「朝九時でもいいですか。」、私も小声で聞いた。
土曜日は終日空いており、少し早めの時間から出かけたほうがゆっくりと過せると思っていた。
そして、「ホテルのロビーにいますので。」と、伝えた。
李華連は、頷くように笑顔を見せたあと、底の浅い黒い厚めの革靴を、廊下の床石に響かせながら帰って行った。