冬の大連はすっかり寒気に包まれていた。
昼間だというのに厚手のコートの上からでも、肌を刺すような寒さを味わうことが出来るほどである。
それでも、大連の駅前は旅支度をした大勢の人々の熱気で覆われ、この一帯だけが特別に寒気から逃れられる唯一の場所のようであった。
かつて日本が統治していた頃に、上野駅を模倣して造ったといわれる大連駅は、時間を計るように少し朽ち果てていた。
磨り減って丸みを帯びた石の階段、古びた石の柱、剥がれおちた外壁がそれでも威風を放っていた。
そして駅前に並ぶ埃の被った売店と、何をするでもなく所在無さげに佇むあての無い者達。
無秩序なタクシーの群れや時代の遺物とも思えるトロリーバス、更に外に向かってスピーカーから流れる騒音に近い列車の案内と、どれひとつをとっても整然として高層ビルが立ち並ぶ周囲の景色とは趣を異にして、過去の歴史を物語っているようであった。
大連駅の四番線ホームには、午後十二時四十分発、牡丹江行きの列車が既に出発の準備を整え、これからの長旅に体を休めるようにしずかに発車の合図を待っていた。もう何十年も使われているのだろう、鉄の扉や窓枠の周りは、剥がれたペンキの上を何回も上塗りした痕が残っており、それでも、所々ペンキが剥がれ落ち赤黒く固まった錆が、古びた列車の時の経過を教えていた。
私は冷たくなったコートの襟を立て、下りて来たばかりの階段に程近い列車の乗車口に急いだ。
時計は発車まであと数分の時間を示していた。
乗車口の前に並んだ私は、
「いよいよ出発か。いつかまたこの街に戻って来るだろうか。
いや、もう戻る事は無いかも知れない。」
小さく呟くと、同じ列車に乗ろうとする乗客たちの肩に押されながら、もう一度ホームから見える街を振り返った。
街はここにいる全ての人々の物語を包含したまま、相変わらず時の流れという規則に従って静かに息づいていた。
「クヮイテン、クヮイテン。(早く、早く)」
車掌の言葉にせかされ、私の束の間の未練は、乗車口の鉄製のステップを踏む音と共に大連の冬空へ消えていった。
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