タケシの冒険 14


タケシの冒険 14


そうこうしていると、植村とジムが久しぶりに研究室を訪ねてきた。無論、まだこうもりと白熊のままである。

「タケシ君どうかね、研究の進展具合は。材料は殆んどそろったと聞いてはいるが」

「はい、必要なDNAは全て合成しました。今、それらをどのように応用していこうかと知恵を絞っているところです。少なくとも、彼らが何故失敗したかは推察できました。というのは、人間の感情を支配する中枢はもちろん脳にあるわけですが、脳には血液脳関門という機構があって血液に含まれる有毒物質などが自由に脳組織内に移行できないようになっているんです。ですから、腕の血管に高分子のDNAを注射してもそれは脳組織に到達し得ないのです。彼らはより進んだ文明の中で生活するうちに、既にそのような生体防御機構が消失してしまっていて、血液脳関門のことなど全く気がつかなかったのかも知れません」

「とすると、彼らは脳組織に直接DNAを投与すれば成功したわけだ」

「可能性は高かったと思います。ただそれだけでは、充分ではないでしょう」

「というと?」

「細胞にDNAを導入しようとしても、DNA単独ではなかなか細胞に入りません。細胞にDNAを導入するためには、それぞれの細胞に適した遺伝子導入試薬を選択する必要があります。それと、仮に細胞に入ったとしてもそれがうまく目的を果たせるかどうかははわかりません。なぜなら、DNAはタンパク質で覆われていて眠っている遺伝子はコイルのようにくるくる巻かれてパックされているからです。目的の部位にDNAを導入しようと思ったら、そこを特異的にほどく必要があります」

「何か良い方法があるのかね」

「そこが一番難しい点なんですが、その点についてあることをひらめいたのです。」