一期一会2


教師のこころ


4年ぶりに訪れたアメリカはやはり広大で、有意義な旅を満喫できた。当時の多くの友人との再会は感慨深かった。もっとも印象に残るのは、前回紹介したESLクラスの先生との再会であった。娘たちが通っていた小学校を訪ねたところ、すでに先生はリタイヤーされていてすぐには会えなかった。電話番号を教えていただいて連絡を取ると、是非家を訪ねて欲しいという。空港で借りたレンタカーでお宅を訪ねると、溢れんばかりの笑顔で暖かく迎え入れてくれた。

趣のある居間に通されて、4年間のご無沙汰の挨拶を済ませると、先生は4年間に乳癌を患って化学療法と放射線療法を受けたところ、今は転移も観られず、すこぶる元気だと笑顔を振りまいた。今は仕事を減らし、週1回の孫の世話が最大の楽しみと言う。お茶を出されたところで、娘からあずかってきた手紙を渡すと宝物のように受け取った。封筒から便箋を取り出すと、まず字が綺麗だと褒めた後、食い入るように読み始めた。しばらくすると、両の手で広げられている便箋が小刻みに揺れるのが、すぐ横に座っている私に伝わってきた。先生の顔を覗くと、瞳には涙が溢れ、口に手を当て、娘の名前を発すると同時にその涙が頬を伝わり落ちた。この手紙を読んだかと私に渡すと席を立ち、後ろにあったティッシュで鼻をかんだ。その手紙には、最近勉強が忙しくなって先生にあまりお便りできなかったけれど、先生のことを忘れた訳ではないこと、先生のお陰で学校の英語はいつも成績が良いこと等が端正な筆記体で綴られてあった。もらい涙をするのを必死にこらえながら、最近の子供たちの写真を見せると、二人の名前を連呼し、大きくなったと目を細めた。そのうちの一枚を置いてきた。先生は自分がどんなに感激したか子供たちに伝えて欲しい、4年前に聴かせてくれたファミリーコーラスをテープに吹き込んで送って欲しいと告げながら、玄関先で見送ってくれた。

ラボや合唱団の仲間との交流はとても心が和み、再会の喜びに浸った。食事に招いたり招かれたりしたとき、私たちは家族でいつもコーラスを披露したらしい。皆が口を揃えてあのコーラスは今でも忘れられないと語った。そのとき、音楽のもつ力を感ぜずにはいられなかった。また、皆にお会いしたい。