6月。

相葉家の一大イベント、ニノの誕生月である。
雅紀はこの日をものすごく楽しみにしていた。
愛するニノをどうしたら喜ばせることができるのか。
ずっとずっと、そればかりを考えている。

もちろん、雅紀からのプレゼントなら、ニノはなんだって喜ぶだろう。
けれど、それじゃ雅紀は満足しない。
どんなカタチであれ、雅紀からだから喜ばれるだけじゃない。
その“カタチ”そのものでも喜んでほしいのだ。

雅紀はニノの笑顔がとても好きだ。大好きだ。
その笑顔のためならなんだってできるとさえ思っている。

高価なプレゼントやたくさんの物ではダメ。
なんなら買いすぎと怒られてしまう。
日常の買い物でそこは実証済。
ニノの古びた衣服を総とっかえするにも、かなりの年月を費やした。

「いいよ、まだ使えるよ。」

今は安定した収入があり、なおかつ雅紀のような金持ちと結婚したというのに
根っからの貧乏性は、そうそう簡単に治るものではない。
もったいないおばけを心底信じている可愛らしい人なのだ。

雅紀は考える。とにかく考える。
ニノの好きなものはなんだろう。なにをしたら喜ぶだろう。
出会ってからずっと見てきて、今は誰よりも彼を知っていると自負する雅紀。
そうして見つけた答えは雅紀にとって挑戦ともいえる内容。
でも、やり遂げたら絶対に喜んでもらえると自信がある。

幼馴染の翔潤や、ニノを幼い頃から知る智に相談。
もちろん、MASAKIを仲間外れになどしない。

が。MASAKIは高性能ロボットとはいえ、まだ小学生程度の中身だ。
秘密ね、とか、サプライズね、と散々聞かされ
「分かった!」と自信満々に答えたが理解度はイマイチだった。

ニノとMASAKIは一緒に仕事をすることが多い。
そこでつい言ってしまったのだ。
ニノに「サプライズの準備中なんだよ。」と。
そう言われたら、すぐにピンとくる。
ああ、自分の誕生日のために雅紀がなにか考えてくれているんだなと。
だけど、MASAKIひとりの責任とは言い難いのは雅紀自身が嘘をつけないからだ。
なにか隠し事してるななんてことは、すぐに分かってしまう。
そもそも誕生日である17日はなんだかんだ理由をつけられ
早めに帰れるスケジュールにされていたし、翌日は有給消化しろと
半ば強制されていたのだから翔潤を巻き込んでいるのも明白だった。
なので、MASAKIが言う前からなんとなくは気づいていたのだ。
具体的な内容は知ることがないようにとニノ自らが気をつけていたくらいだ。
MASAKIに対しても「秘密と言われたんじゃない?これ以上は内緒ね?」と言い聞かせた。
言われたMASAKIは自身の口を両手でふさいでコクコク頷いた。
その素直な表現に自然とニノの表情はやわらいだ。

MASAKIモデルができてから、すでに何体ものロボットが作られ試用試験をしている。
それによって判明したのは、MASAKIレベルの美形にすると
トラブルが生じやすいということだった。
心拍数が上がってしまったり、老人ホームなど複数人のお世話をする施設となると
取り合いになってしまったり、心身ともに支障がでる。
ということで、雅紀の美形レベルを100%とするとレベルを65~70%へ下げ、
その上で“あえて”ドジ・失敗機能をつけ、より人間らしさを搭載。
今のところ、これが親しみがあってよい、緊張しないと好評である。
基本モデルはMASAKIの他にNINO・SATO・SHO・MJ
ただしMJは派手が過ぎるので美形レベルを50%まで落としている。

と、脱線したが、つまりは櫻井博士・松本博士、そして企画部チーフ二宮の
仕事はものすごーく好調だということである。
その活躍ぶりに「自分もがんばらなきゃ!!」と雅紀は背中を押されていた。
ニノへの誕生日プレゼントはその成果発表みたいなものとも言えた。