「ここで教えていいの?」
揺れるアーモンドアイ。
いつもは白い手袋に隠されている指に指を絡め唇の端だけで笑う。
「あの、、、ここではちょっと、、、その、、もし。」
「うん。」
「俺が望む続きがあるのだとしたら、聞きたいことがあるんですけど。」
「聞きたいこと?」
ここじゃちょっと。声を潜める彼。
ここでは誰も耳を澄ましたりなんかしないのに。可愛いね。とても可愛い。
指を絡ませたままグラスを傾け空にすると「出ようか。」と誘う。
さっそく月明かりの下、君と歩くことができる。踊る心を止められない。
スルリと立ち上がる俺に慌てて自分のグラスをあけると追いかけてくる。
マスターに軽く手を上げ店を出る俺に「え?え?」と慌てるのがまた可愛い。
BARから50mほど離れた人通りのない歩道で「あの、、、支払い。」なんて。
ふふ、野暮だよね。ほんと可愛い。
「あそこは行きつけだから。大丈夫。」
月に一度の自動清算になってるからと微笑めば「俺の分っ。」なんて、バカな子。
「初めてのデートで払わせるわけないでしょ。」
「デ、、、デート、、、!?」
「あれ?俺の中ではそういう認識だったんだけど。潤の中では違うの?」
「そんな認識はしてなかったです、、けど、、、そうだったらいいな、、とは。」
語尾がどんどん小さくなる潤の指に再び指を絡めたら慌てて振りほどかれた。
「潤?」
「こんなっ、、、ダメ、、、です。」
キョロキョロと辺りを見渡すのに苦笑してしまう。
20時18分。人はまばらで帰りを急ぐ者ばかり。知り合いなどいるはずもない。
なにをそんなに気にする必要がある?
「翔さんは立場のある方でしょう。」
決して小さいとは言えない会社の副社長であり
次期社長を約束された身であるのは確かなこと。
でも、それがなんだというのか。
そんなくだらないことで蹴落とされるような弱さは生憎持ち合わせてはいない。
だけど、心底俺だけのことを思ってくれる潤の純粋を利用させてもらおうかな。
だって俺は悪い男だからね。
「じゃあ、うちに来る?」
「えっ。」
「それともホテル?」
潤が選んでいいよ、その言葉の意味が分からないほど子どもじゃないだろ。
「翔さんはこっちの世界の人じゃないでしょう?なのにどうして。」
「こっちの世界?なにそれ。」
「俺はずっとマイノリティだと自覚してきました。つまり、その。」
女性を愛せない。呟く唇に納得と羨望。
その唇にふれたい衝動はその世界とやらに意味をもたせない。
「翔さんは今まで女性を愛してきたでしょう?」
そういうの分かるものなのか。感心してしまうがそんな場合じゃないだろう。
不安と小さな不信感のようなものと希望が入り混じったアーモンドアイ。
月明かりの下で見るのは予想よりも遥かに美しい。
「新しい扉を開くことができたのは潤のおかげだな。」
「え?な、なにをっ、、、」
軽く思ってくれちゃ困る。俺はこうと決めたら動かない頑固者なんだ。
だからね、世界とかそんなもんどうでもいいの。
今、俺は。
シャツ越しに筋肉のついた腕を掴む。
今まで触れてきた女性のものとは太さもやわらかさも全く違うこの腕。
今、俺が触れたいと願うのは潤のこの腕。文句なんて言わせない。
ずっと重ねたかった艶やかな唇を奪う。ほんの数秒、
ふれるだけのキスは驚くほど甘く痺れた。これも予想以上だ。
「な、、あんたバカかっ!!」
怒られた。これが素か。ふふ。ふふふふふふ。あはははははは!
大きく笑う俺に「笑い事じゃない」って怒ってる潤。
感情が分かりやすい素直なシャムネコの背が逆立っている。
引き寄せ抱きしめれば思いっきり抵抗してくるんだから困ったもんだ。
「その抵抗は場所?それとも俺?」
「あんた、、、ずるいんだよ!!」
「ようやく気付いた?」
まだ笑う俺に呆れたようなアーモンドアイ。たまんないね。
「翔さんち。」
「ん?ああ。オッケー。車を呼ぼう。」
素早くケータイで車を呼びつける俺の背中に
「ほんとにいいの?」なんてか細い声がぶつかってきた。
不安げに揺れるアーモンドアイが月の光を宿してキラキラ光る。
自分の部屋のカーテンを開け放ち、月の下、シーツの海で泳ぐ潤を見たい。
そんな欲望が大きくふくらんだ。
「男性とは初めてだからご指導よろしく頼むよ。」
サラリと尻をなでたら「もう!!」とはたかれた。
笑うアーモンドアイは少し不安が映る様だけどそれでいい。
まだまだ安心なんて与えてやらない。
今夜の続きを筋立て導こうとしている俺に潤はまだ気付いていない。
ごめんね、俺はずるい男なんだ。

