突然、16歳の時のことを思い出した。
私は高校で美術部でした。3年生で、普段は運動部所属でも
建築科などを受験する先輩は、美術部にデッサンの勉強に来て
いました。美術室は3階にあり、校舎をつなぐ通路の入り口にあり
そこがデッキのように日光浴できる明るい良い場所でした。
夏休みには三重県の海に「スケッチ旅行」し、夏休み中は、その
明るいリゾートっぽい美術室で絵を仕上げます。
合宿のようで楽しい毎日でした。
美術部に、水泳部から来ている理数科の先輩がいて、いつも黙って
ひとりデッサンしていました。教育学部を受けるみたいでした。
私は、その「一人黙々と勉強する姿」に憧れました。
それで、年が明けたバレンタインデーにチョコレートを渡したのです。
先輩はちょっと照れて受け取ってくれた、と思う。よく覚えていない。
好きというより、単に自分に無い寡黙さに憧れたのでしょう。
そして受験真っ只中のシーズンになり、先輩は卒業して行きました。
4月になり学年が一つ上がり、私は二年生なったある日、新三年生
の男子が私を探して私のクラスに会いに来ました。
「教室の僕の机に何か入っていて、見てみたらチョコレートと手紙
でした。悪いと思ったけど、手紙を読ませてもらい、貴女だということが
わかりました。僕は感動しました。
僕でよかったら付き合ってもらえませんか」ということでした。
先輩は、私があの日の朝、下駄箱あたりで渡したものを、そっくり
そのまま机に入れたまま卒業して行ったのでした。
その新三年生の先輩は生徒会で頑張ってるような真面目な良い人
でしたが、もちろんお断りしました。
あれから何年ったった頃でしょう。先輩は無事国立大学に合格し、
それから陶芸家になっており、一年上の女の先輩が、友人の結婚祝い
の陶器を先輩の工房へ依頼に行った時に、私の話になったそうです。
「あの時は、僕は受験で頭がいっぱいで、まったく他事が考えられ
なかった。本当に悪いことをした。」と先輩は言ったそうです。
当の私はと言えば、さすがに4月は多少驚いたものの、それから直ぐ
私の華々しい?人生は始まったため、そのようなことはまったく
忘れ去っていました。
10代の思い出は、普段忘れてるけど、今思い出すと面白いものです。
あれは憧れの美しい思い出なのか、一つの汚点なのか、
今はもうどうでも良いことなのでした。