白熱する炭素繊維のシェア争い、戦略の違いが明らかに | マクロ経済のブログ

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 航空機やプラント施設だけでなく、自動車やスポーツ用品にも市場が拡大する炭素繊維。世界最大手の東レ(3402)は高価格路線で「普及より高収益」を追求してきた。

一方で帝人(3402)や三菱ケミカルHD(4188)傘下の三菱レイヨンは「低コストでの普及」で攻勢に動き出した。その主戦場が自動車市場だ。炭素繊維で世界シェアの7割を占める日本勢3社は価格戦略を巡って激しい攻防に突入した。

 「本当に採算がとれるのか」。帝人が2012年発表した米自動車大手、ゼネラル・モーターズ(GM)への炭素繊維供給に市場関係者は驚きを隠さない。GMは「1台200万~300万円程度の量販車で炭素繊維の使用を検討している」(証券アナリスト)との噂が流れているのだ。

 炭素繊維は鉄の10倍の強度があるが、1キロ当たりの価格は鉄やアルミニウムの10~30倍する。

 先行する東レの炭素繊維は高級車だけに供給する。同社の炭素繊維を採用するのはメルセデス・ベンツSLクラス(1台1190万~3050万円)などだ。

 ある自動車大手の設計者は「200万円台の量販車では高価な炭素繊維など使えないのに」と首をひねる。車体の上部に炭素繊維を使えば走行の安定性は向上する。ただ、炭素繊維を使う複合材料は1平方メートル(厚さ1ミリ)あたり2万円程度で、金属材料の同1千~2千円と比べ桁違いに高い。

 実はGMの採用の裏には炭素繊維の仕様を巡る日本勢の2大陣営の戦いがある。世界シェアは東レが4割を占め、帝人と三菱レイヨンは合計で3割程度とみられる。「高級志向の東レの牙城を崩すには、帝人と三菱レイヨンは低価格化に活路を見出し始めた」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の仲田育弘シニアアナリストは指摘する。

 炭素繊維はプラスチックで周囲を固める技術が鍵を握る。帝人は冷却すれば固まるプラスチックを採用。従来は10分はかかったとみられるが、11年には1分以内で成形が可能になった。単純計算で1製品の固定費を10分の1に削減できる。

 三菱レイヨンの越智仁社長も「普及できる価格まで下げるには、冷却で固まるプラスチックの採用が有効だ」と話す。

 一方、東レは熱を加えて固まる「熱硬化性」のプラスチックを使用。織物にした炭素繊維を金型に入れて樹脂を流し込むので、成形に5~10分かかるとみられる。冷却タイプに比べ耐熱性や衝撃強度は高い。

 東レは航空機や高級車市場でシェアを広げ、炭素繊維部門の利益率は2桁を確保してきた。15年までに内外に600億円の設備増強を計画し、「安売りするつもりはない」(大西盛行専務)という。昨年1年間で2~3割下落した糸の国際価格も引き上げを目指す。

 低価格による量販と高級路線――。日本勢の価格戦略は分かれており、3社の攻防が国際価格も左右しそうだ。

▼炭素繊維とは  特殊なアクリル繊維を高温で焼いてつくる真っ黒な繊維。鉄に比べて重さが4分の1で、強度は10倍。樹脂を混ぜた複合材料として使う。欧米企業が相次ぎ撤退するなか、日本企業は1970年代から開発を継続。現在、東レや帝人、三菱レイヨンの3社で世界シェア7割を占める。

釣りざおや、ゴルフシャフトなどスポーツ用品から利用が始まった。需要が急拡大しているのが航空機で、米ボーイングの新型中型旅客機「787」では重量ベースで機体の半分に使われ、2割の燃費改善に役立った。2010年の世界需要は3万トンで、今後は自動車や風力発電で採用が進み、15年には7万トンまで膨らむ見通し。