ショートストーリー213 | 丸次郎 「ショート・ストーリー」
「遊び疲れた子供のように、無心になれたらいいのに。。。。」
リサコは、公園のベンチに一人腰をかけながら、そうつぶやいた。


「リサコ、コーラ買って来たよ、ほら。。。」
近くの売店まで、飲み物を買いに行っていた元恋人のノブオが、リサコにコーラを手渡した。


「ありがとう、、、、はぁーあ、」
冷たい缶コーラを両手で握りしめながら、浮かない表情のリサコ。。。


「相変わらず、リサコのお父さん、具合悪いのか?」
ノブオは熱い缶コーヒーを飲みながら、いつも気にかけていた事を訊いてみたのだった。


「まぁーねぇ。。。私が看護師だから、もっと父の介護をしてあげればいいんだろうけれど、病院の仕事が忙しすぎて、なかなか手が回らないのよ。。。」


「俺、時間が空いている時だけでも手伝いに行きたいけれど、お父さん俺のこと、気に入らないんだよな。。。参ったなぁ。。。」


ノブオとリサコは、大学時代に付き合っていた時期があった。ある時、リサコはノブオと二人で、信州方面に2泊3日のデート旅行に行ったのだが、両親には「ゼミの合宿に行く」と、嘘をついて出かけたのだった。。。。


しかし、どこからか二人きりで旅行に行ったことがバレてしまい、それ以来、リサコの父親は、ノブオを受け入れなくなってしまったのだった。。。


それが直接の原因ではないが、以来二人の関係もギクシャクしたものになり、やがて別れてしまった。



「あれから7年が経つのね。。。あの時、父がノブオを許していたら、今頃私達、夫婦になっていたのかなぁ。。。」

独り言のように、しかし、しっかりとノブオに聞こえるように、リサコは言った。手に持っている缶コーラは少し温まって、表面に大きな水滴が付き始めていた。。。。

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「よせよ。。。お父さんのせいにするのは。。。俺だって、リサコのお父さんの立場だったら、可愛い娘に嘘までつかせて、旅行に連れ出した男なんて、絶対に受け入れられないと思うから。。。」

そう言いながら、缶コーヒーを握るノブオの右手に力が入った。。。


「パキッ!、、、シュワァーーー」
リサコは、ようやく缶コーラのタブを指で引いて開けると、一口だけ飲んだ。


「ノブオ、大人になったねぇ~。。。相手の立場になって考えるなんて。。。あの頃は、お互いに、これっぽっちも持ち合わせていなかったもんねぇ。。そういう気持ち。ガキだったなぁ、、、私達」

公園の芝生で、転げまわって遊ぶ子供を見つめながら、リサコはそう言った。



「なに一つ成長していないように感じても、やっぱり少しは成長しているんだなぁ、、、俺でも」


「うふふふっ(笑)、そういうものなんじゃない?人間って。。。」

ようやく二人の間に、笑みがこぼれた。。。そして鳩の群れが、上空を通過していった。。。


「まだ、お父さん、俺のこと嫌っているんだろうなぁ。。。リサコ、どう思う?」


そう訊かれたリサコは、芝生の子供をじっと見つめたまま、黙っていた。。。少し間をおいた後、答えた。

「う~ん、、、どうだろうねぇ。。。父、私に似ているから、きっと、もう7年前のことなんて気にしていないと思うけどね」


「そうかぁ。。。じゃあ今度、お父さんの好きな地酒でも買って、恐る恐るお見舞いに行ってみようかな?」


「この機会にリサコの父と、和解したい。。。」心の中で、ノブオはそう思っていた。

リサコにとっても、ノブオと父が和解してくれれば、将来的にも道が開けてくる気がした。


「ありがとう。。。でもお酒は困るわ。。。医者から、今後一切禁酒するようにって、きつく言われているの。。。そうねぇ、、、美味しいスイーツがいいかなぁ~」


「おいおい!それは、お父さんじゃなくて、リサコが食べたいだけだろ?」


「バレたか!あははははっ(笑)」

無邪気に微笑むリサコを、ノブオは久しぶりに見た気がした。。。


「お見舞いの品で、お父さんの気持ちを損ねたら、俺、今度こそ永久に拒絶されるよ、きっと!」
半ば真面目な表情で、ノブオは言った。


「そうだね~!そうなったら私も嫌だなぁ。。。分かった、スイーツは我慢する!お父さんには、お酒と塩辛いもの以外だったら、なんでもいいと思うよ!」

どこかスッキリとした表情のリサコが、笑顔で答えた。


「うわっ!いつの間にかコーラ、ぬるくなっちゃった。。。はい、ノブオにあげる!」
話に夢中で、ほとんど飲まずに握りっぱなしだった缶コーラを一口飲んだリサコが、渋い表情をしながら、そう言った。

「いらねぇ~よ!俺だって!」リサコから差し出された缶コーラを、手で遮るノブオ。。。


「あははははっ(笑)」

二人はいつしか、大学時代の二人に戻っているようだった。。。。


「また、やり直せるといいね!私達。。。」リサコは急に真顔になると、ノブオにそうささやいた。


ノブオも真面目な表情になると、リサコを見つめながら言った。
「ああ。。。きっと大丈夫だよ。。。俺とリサコなら。。。」



二人は7年ぶりに手を繋ぐと、ゆっくりと歩き出していった。。。。








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西脇唯  「SHARE」