ショートストーリー211 | 丸次郎 「ショート・ストーリー」
遠い過去から、一通の手紙が時間の風に流されて飛んできた。。。わずかに開いた窓の隙間から、彼女の部屋へと舞い降りてきた。。。

彼女は窓際のソファーに座ると、古くて変色している手紙を開いて読み始めた。。。


「ありがとう。。。とても嬉しく思うよ。。。。だって大好きだから。。。。

あの頃よりも、最近の君は、少し苛立っているみたいに見えるんだ。

もし苛立っているのなら、深呼吸をしてみて。。。一回、二回、三回、、、そう、少しは安らいだでしょ?


何かに焦っているの?それとも怒っているの?自分に対して?それとも他人に対して?仕事に対して?

高い志と、強い意気込みを胸に秘めて、君は日々、戦ってきたね。。。。負けるものか!と。。。


男女平等とか言いながらも、いまだに男社会のこの世界で、君は人一倍の努力と根性で、遮る壁を突き破ってきたよね。

すべての物に、表と裏があるように、どんな組織にも、どんな個人にも表と裏がある。。。。

勿論、私にも、君にもある。。。


裏の姿を知ったとき、それを、自分にとっての「壁」だと思うか、「風」だと思うか。。。それによって、進む方向が変わっていくのかもしれないね。。。


乗り越えられる壁だと思うなら、這いつくばって登って行くしかない。。。でも、とてつもなく手におえないと思えば、避けるしかない。


ある人は巨大な壁を見上げて、溜め息をつき、初めから登る事を諦める。。。ある人は壁を登っていく。。。でも途中で疲れて、でも落ちたくないから必死に壁にしがみ付く。。。やがて、徐々に巨大な壁を乗り越えてゆく。。。

$丸次郎「ショートストーリー」

巨大な壁を乗り越えた、その先には、どんな世界が待っているのだろう?果敢に挑み乗り越えた人にしか見えない世界。。。


壁の向こう側に広がる世界は、その人が望んでいたような世界なのか?あるいは、失望させるようなお粗末な世界なのか?。。。それは、人それぞれの感覚によって異なるだろう。。。


巨大な壁にトライするだけの気力、体力、動機がない。。。そういう人だっている。


でもそれは、悪いことじゃない。己を責める必要もない。なぜなら、自分の意思とは異なる力が行く手を阻むことも、人生にはあるからね。。。それが人生なのかもしれない。。。


君は壁を越えられる状況でありながら、いつからか壁に挑むことを、やめてしまったよね。。。

この居心地の良いエリアで、歩調をあわせながら生きていく事の方が賢明だと、君は学んだ。。。


心に描いていた希望は、所詮、砂の城だったんだと、あの日から君は諦め始めたね。。。


でも君は、本当に諦めたわけじゃない。。。心の奥で密かに、再び来るチャンスの時を待っている。


その時までは、ゆっくりと力を養っていけばいいんだよ。。。焦らないで、ゆっくりね。。。


少しも進んでいないと思う日でも、実は、とても大切な役割をもっていて、そんな日でも必ず君にプラスになっているんだからね。。。


君が歩む先には、必ず開けた世界。。。希望に溢れていて、清々しい風の吹く優しい世界が待っている。。。



世の中には、君を誤解している人も多いよね。。。君は、生き方が器用そうで、実は不器用だってことを知っているよ。。。


人が思うほど、君は強い女性ではない。。。この世界で生きていくと決めたあの日から、君は数々の鎧を身にまとって、逆風に立ち向かっていったんだ。。。


いつしか無くしてしまったゆとり。。。安らぎ。。。虚しい気持ちを満たそうと、君が求めた一時の夢は、終えてみればいつも虚しさを増やしていた。。。君は、その度に孤独を強く感じたよね。。。



でも、君はもう大丈夫。。。迷うことなく、人と比較することなく、焦らずに進めばいい。。。


それが出来た時、君は、さらに輝きを増していくよ。。。私は、いつでも見守っているから。。。」




青いインクの万年筆で、彼女が産まれるよりも、ずっと遠い過去の時代に、誰かによって書かれたこの手紙。。。。


手紙の宛先は、今、読んでいた彼女。。。。この筆跡、どこかで見た覚えがあるような、ないような、そんな不思議な感覚の中、彼女は手紙をたたむと、引き出しの奥に仕舞った。。。。







懐かしのヒットナンバー
薬師丸ひろ子  「WELCOME BACK TO MY HEART」