コロナが席巻する1年前の冬、2018年の11月末に軽い風邪に罹った。

ちょうど休日だったのでおとなしく休んで、その後普通に出勤していた。

 

そもそも軽い風邪で、熱もなく、鼻水がたくさん出てだるいくらい(私は鼻が弱くて風邪をひくとすぐに鼻にくるのだ)だった。

しかし、通常ならこの程度の症状の風邪は、一日おとなしくしていればすぐに翌日元気になる、または回復してきたことを感じるのだが、この時はおとなしくしていたのにすっきりしなかった。

 

悪化しているというわけではなく、鼻水の量も減ったので普通に通勤していた。

いつものように会社でデスクワークをしていると、15時頃ころから右の後頭部がずきずきするようになった。いったんそれが始まるとその後は右側の頭痛がずっと続く。

そもそも普段は頭痛などすることがなくて、慣れていない私には辛かったし、

頭痛が始まると集中できなくなって仕事もやっとのことでこなしていた。

頭痛が出ると微熱も出て、夕方にはいつも37度台にはなり、右の鼻の鼻水は収まり切らず、体がだるく食欲もなくなった。

毎日どうにか会社に行っていたものの、それ以外何もする気がせず、あんなに食べることが好きだったのに、食事も摂らないともっと体力がなくなるからと義務的に食べ

帰ったらすぐ寝る毎日で、土日もずっと寝ていても、いつまでも状態はよくならなかった。

 

そのうち、だんだんと駅まで10分間歩くのもきつくなってきて、駅の階段を上るのも厳しくなってきた。

体のだるさは増していき、毎日の頭痛は収まることがなく、夕方が近づくことが毎日怖かった。

 

そこで、現代人としてまず皆が試みるのはネット検索だろう。

もちろん私もいろいろと検索した。

しかし、検索する前からそうだろうな、と想定していたように、私のような症状は原因不明なため、精神的な要因に帰せられることが多いということがやはりはっきりしてきた。

すぐに病院などに行かなかったのも、きっと原因不明で心療内科に行けとか言われるだろうと思ったからだ。

 

医師に「体に問題はない、精神的ストレスのせい」と、言われれば、それをそのまま受け入れる人も多いのだろう。

しかし私がそれに反抗していたのは、自分のこの症状が始まったきっかけを知っているということと、過去にオステオパシーというアメリカ由来の徒手療法(術者の施術で体を治すこと。聖体のようなもの)を学んでいたので、西洋医学の医師の見立てがすべてではないと思っていたためだ。

 

しかし体の調子は悪くなる一方で、原因不明で精神に帰せられる以外の疾患としてネット検索で出てくるのが「咽頭がん」などのがんだったので、とりあえずその可能性をなくすべく、耳鼻科に行って内視鏡検査してもらうことにした。

 

会社の近くの耳鼻科に向かったのだが、たまたまラッキーなことにその医師が「慢性上咽頭炎」を扱っていて、症状を伝えると恐らくそれではドないか、といわれた。

検査するとやはりがんではなく、少し炎症がみられるのでやはり慢性上咽頭炎だろう、と。

鼻の奥、喉の上の辺りが何らかの理由で炎症を起こし、それが治らず慢性化して、

様々な症状を引き起こすものた。

正式な病名ではなく治療法もなく、対処療法しかないということだったが

まずはがんではないということと、何が何だかわからない原因不明の症状ではなく、一応これだろうという疾患名を与えられたことにまずは安心した。

 

正式な病気ではないため、Bスポット療法(EAT療法)という、液体を鼻の奥に擦りつける対処療法を、うちでは自費でやっています、といわれた。

たいした手間もかからないのに、自費で示された金額は高かったし、必ず治るわけでもなく、ずっと続けなければならないといわれ、とりあえず自分で取り組めることとして紹介された鼻うがいを始めることにした。

 

鼻うがいを始めて、少しよくなったような気もしたが、気のせいレベルであり、

そのうちその気のせいレベルの効果も失われて、症状が長く続くことで体力がどんどん失われて行って、夕方の熱もきつくなってきた。

 

駅から家までの10分間の道のりもやっと、というフラフラな感じになっていって、

このままではそのうち会社にも行けなくなってしまう、それで治るならまだいいけれど、今までの感じからいっておとなしくしていれば治るのでもないし、どんどん悪くなっているのでヤバい、

と思い、とりあえず試そうと例の自費治療をやってもらってみた。

 

しかしそれが悪い方の刺激になったのだろうか、その後39度近い高熱が出て声も出なくなった。

それでとりあえず1日会社を休んだが、翌日、少しは下がったものの大差なかったし、

「快方に向かているな」という感触はまったくなかった。

 

「こんな高熱にまでなったらもうどうしようもない、慢性疲労症候群としてこのままずっとこの状態なのか」

とこれまで以上に絶望できな気持ちになったときに、鏡を見てふと思いついた。

 

そもそも、私が学んだオステオパシーは、全身すべてを扱う療法で、頭蓋もそれに含まれている。

頭蓋骨をイメージしてもらえばなんとなくわかると思うが、頭蓋骨という一つの骨ではなくて、いろいろな骨が組み合わさって頭蓋骨になっている。

その骨の接合部分は指や膝などの関節のようにはもちろん動かないが、骨が接合しているのだから、そこにごく僅かの動きはある。

だから歪みも生じるし、歪めばどこかの接合部分は緩くなって、どこかはそのひずみで固着してしまう。

 

私はその年のGWに、自宅で右の顔(目の下、頬骨部分)をぶつけてしまい、腫らしてしまっていた。

もともと頭蓋骨に歪みはあったし、特に右の頬骨から鼻骨、上顎骨あたりが固いなとは思っていたのだが、この打撲によってそれがより悪化したのだと思う。

身体というものは不思議なもので、ある程度まであれば、あまり状態がよくなくても普通に機能する。

しかし、それが一定の閾値を超えてしまうと、機能できなくなって一気に症状が出たりする。

私の場合は、右側の鼻喉周りの骨が歪み、固まっていたところに、風邪のウイルス(今思えば従来型の風邪のコロナウイルスではないかと思う)が入ってきて、固まっているためにうまくそれが排出されず、そのまま居ついてしまって炎症が続き、それがまたその部分の状態を悪化させる、という負の連鎖が続いていたのではないかと思う。

 

オステオパシーの経験があったので、この症状になってから「頭蓋を調整して動きをよくすればいいのではないか」と思い、自分でできる範囲で全体を緩める一連のステップを繰り返しやってみたりはしていたが、効果は感じられなかった。

しかし高熱が出て会社を休み、少しだけマシになったので今日は行くかと、朝うつろな気持ちで鏡を見た時に、

「そういえばGWに顔をぶつけたし、そこが固くなっているだろうな。上咽頭炎ということだし、ちょっとその辺りの動きをつけてみようか」

とふと思いいたって、片手を口に入れて右上の歯の根元(上顎骨の前の部分)をつかみ、もう片手で右の頬骨を持ち固定した。

触ってみると明らかに右の上顎骨は左より上に行っていて、上の骨と固着していることが感じられた。

それを戻すように、頬骨は固定しながら上顎骨を下の方向に動かすように試みた。

すると、すぐに少し楽になったように感じられた。

気のせいであろうとなかろうと、この症状が出て1か月くらい経っていたが、その感覚は初めてだった。

 

その手を使って右の上顎骨に動きを付けることを朝夕と繰り返していくと、少しずつだが症状は治まっていった。

この症状はそれまで1か月近く続いていて、すっかり体力が失われていたため、すぐに元には戻らなかったが、確実に快方に向かっていることを感じた。

食欲も徐々に戻り、体力も少しずつついてきた。夕方の頭痛も収まってきた。

それで1か月くらいすると、元の状態に戻ることができた。

 

手で動かしたくらいで、頭蓋骨が動くはうないと思うかもしれない。

しかし、もともと動いていたものが衝撃で固着しているのを、元通りではなくても少しは動きがつくようにすると、少しは動くのだ。

その少しの動きでその部分のウイルスの排出につながり、炎症が収まったのだと思う。

上顎骨の歪みが取れたわけではなかったが、多少それが解消されたことで治ったのだと思う。

 

私はオステオパシーをその15年前くらいに専門学校に行って学び、その後接骨院で働いたりしたものの、安い時給に嫌気がさしてデスクワークに戻ったので、オステオパシーはお金と時間だけ費やして、無駄だったかな、と思っていた。

しかしこの時、「オステオパシーをやっていてよかった!」と心から思った。

 

もしもオステオパシーをやっていなければ、そもそも医師の言うことを素直に聞いて、「原因不明の慢性疲労症候群で精神的な要因」という話を受け入れ、どうしようもないので放置で徐々に状態が悪くなるのを止められず、そのうち会社も辞めざるを得なくなったかもしれない。

そういう人は、たくさんいると思う。

 

今の新型コロナで、あまりにもそういう人が多いため、これまでよりも「ウイルスが起因する後遺症」として認められるようになって、前のように精神的要因だと切り捨てられるようなことはあまりなくなって、少しはましかもしれない。

しかし当時は、EBMというか、これまでの治療や研究などで定められた検査法、治療法がないものは病気ではない、とされ、よくわからないため精神病だと普通にされていたと思う。

でも人の体は千差万別で、定評ある検査法や治療法から滑り落ちるものもある。

もちろん、定評あるものに引っかかればそれで進めてもらうべきだし、西洋医学を貶めるものではない。そこに当てはまる病気なら、それで直してもらうのが一番だ。

ただそれが全てだと思わない方がいいと思う。

そこから滑り落ちるものもあり、滑り降りた場合に自分の感覚を信じず原因不明という医師の話を信じてしまうと、治るものも治らなくなってしまう恐れがある。

 

特に慢性的な症状は、長く続けば続くほど体がそれを恒常的な状態だと思うようになって、より治りにくくなってしまう。

だから私が1か月くらいで快方に向かったことは本当に良かったし、オステオパシーを知っていて、自分のこの症状の始まりが風邪にあることをはっきり意識していたこともよかった。

 

今、新型コロナの後遺症で苦しんでいる人はたくさんいるようだ。

その程度も症状の表れも人それぞれでわかりにくく、治療法もなく、当面死ぬわけではないので放置、ということが多発しているではないかと思う。

それで体がつらいので家に閉じこもっている内に、それこそ精神的にもやられてしまって、精神が原因だといわれても仕方ないような精神状態になっていく、というのも容易に想像できる。

 

私は、後遺症になるのは、どこかでウイルスの排出が完全にはされておらず(コロナ陽性になるほどではなく、多くは排出されているのだが少し残っている)、その部分に炎症が起きることで、神経などにも差し障っていろいろな全身症状を起こしているのではないかと思っている。

よくあるのが、私のように上咽頭炎あたりで、ここに歪みがある人に起きやすいのではないか、コロナに感染するとこの辺りにウイルスが多いことからもそう思う。

もちろんそこだけだとも思わない。体はいろいろと微妙なところで日々動いているので。

 

それでも、いつ治るかもわからず、弱った状態が続くというのは非常にきついものだと、私も後遺症を経験したのでよくわかる。

治療法がない、と医師に言われあきらめてしまうのではなく、自分の健康は自分で守る気持ちで、体のどこかにあるか上にアンバランスな部分、固着しているところを探して

少しだけでもそこを風通しがよくなるようにしてみれば改善に向かうかもしれないということから、何かのきっかけになればと思っていることを記させてもらった。