コンサートにおけるマナーの話 | Notes & Rests

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音符と休符 音楽のひとつ手前の、音を表す記号

神奈川フィルハーモニー管弦楽団のXの投稿から

 

 

 

 

 

そういえばこのところクラシック音楽のコンサートに行ってない。

最近行ったのはミチェル・カミーロのジャズコンサート、あとは歌舞伎か。

それももう2023年の話で、今年に入ってからはどこにも行ってないなぁ。

 

その少し前にダニール・トリフォノフのピアノリサイタルがあった。

演奏は素晴らしかった。素晴らしかったのだけど、客席がガラガラすぎて泣けてきた。

ざーっと数えてみたけど、1600席の会場に、5、600人ほどしか入ってなかった。

それでも今年も来てくれるトリフォノフ、すごいと思った。

思ったけど。

やっぱり客席は空席が目立ったらしい。

 

そんな折、ふと、あるInstagramの投稿が目に入った。

韓国人の投稿で、トリフォノフのソウルでのリサイタルのワンシーンを

動画でアップしていた。

それがね、めっさ楽しそうだったのよ。

舞台の上でトリフォノフ、思わず笑みをこぼしているし。

 

アンコールで、ジョン・ケージの「4'33"」をやったのよね。

4分33秒間、無音、無動作、ひたすら音を出さずに座っているというもの。

これはコンセプトは知っている人は知っている。

その無音の4分33秒の「演奏中」、客席からの

 

「Love you💖」

 

という言葉が静寂を破った。

とたんに客席から笑いが起こり、トリフォノフも思わず笑う。

 

なになに、この楽しそうな雰囲気は。

 

 

振り返ってワーク二、日本。

 

「演奏中の録音録画はお控えください」

「演奏中はスマートフォンの電源をお切りください」

「拍手は指揮者が指揮棒を完全に降ろすまでお待ちください」

「チラシや飴の紙など、音を立てますとほかのお客様のご迷惑となりますので

ご注意ください」

「ほかのお客様のご迷惑になる行為はお控えください」

「ほかのお客様のご迷惑になりますのでおやめください」

 

コンサート会場の扉をくぐり、チケットを差し出し、ちぎってもらい、

プログラムを受け取り、客席に向かい、腰を下ろすと間もなく降り注ぐ

これらの文言。

 

ぶっちゃけさ、楽しくないよ。

 

ソウルでのリサイタルの楽しそうなトリフォノフの顔を見て、

 

ああ、それでも日本に来てくれるのは、ついで、なんだな。

ソウルのついで、北京のついで、上海のついでに、日本に寄る。

 

サント・ドミンゴでもトリフォノフのコンサートは聴いたけど、

お客さんはクラシック音楽のしきたりなんてほとんど知らない人たちで

楽章の合間に拍手はするし、ブラボーまで言っちゃうし、

でも、楽しかったのだよね。こんなところまで来てくれてうれしかったし。

ロビーでのCD販売も、終演後のサイン会もない、地味なリサイタルだったけど、

なんだかはじめて、本物のクラシックコンサートに来た気がしたものだ。

 

トリフォノフはその翌年、マリインスキー歌劇場オーケストラとゲルギエフを

連れてサント・ドミンゴに戻ってきた。

程なくコロナでロックダウンになるというタイミングでのこと。

その後、世の中がおかしくなってしまって、再訪は果たされてないみたいだけど。

トリフォノフのリサイタルもマリインスキーのコンサートも、

プログラムは、クラシック音楽鑑賞の初級編という感じのものだった。

これから、初級、中級、上級と攻めていくつもりだったんじゃなかったのかな。

 

わかるかな。

日本を離れて、欧米や中南米、アジアから音楽社会を見渡してみると、

世界の動きがどの方向へ向かっているか、けっこうわかる。

クラシック音楽界も、新規開拓を怠りなくやっている。

最近は中南米もアジアもかなり音楽教育に力を入れてきているし、

お金のある国は欧露の優秀な教授陣に惜しみなく金を払い招聘している。

シンガポールなんかかなり伸びてきているようだ。

中国、韓国のレベルの高さは不動、そしてこれからは国境を開けた北朝鮮も出てくる。

日本では知られていないけど、モンゴルのオペラのレベルはかなり高い。

アジアはクラシック音楽の世界では、いわば巨大な金鉱金脈。

掘れば何でもいくらでもザクザク出てくる状態。

そんな中でさ。

 

日本だけが違う線路を走ってるんよ

 

マナー徹底の前に、やることがもっとほかにあるのではなかろうか?