プーチン大統領の外交手法は一貫して「戦略的演出」と「実利追求」の組み合わせにある。相手に友好の印象を与え、強硬姿勢を封じながら、実際の交渉結果は自国に有利に収束させる。この構図は今回のトランプ大統領との会談にも適用できる。狙いは経済制裁の骨抜きと国際的孤立の回避、そしてロシア側の戦争被害を最小限におさえながら平和裏にウクライナの領土を着実に奪うことである。
前例として顕著なのが安倍元首相との関係である。首脳会談の回数は異例の多さを誇ったが、その結果北方領土問題は二島返還論に矮小化され、ロシア側の立場が強化される結果となった。友好関係を印象づける一方で、主権や領土といった核心的利益は一切譲らないというプーチン外交の構造が如実に表れた事例である。
この背景には、プーチンの外交観が「武器を持たない戦争」という認識に立脚している点がある。相手を心理的に拘束しつつ自己の願望を達成するのが彼の常とう手段だ。友好演出は戦術に過ぎず、実利確保こそが彼の唯一の目的である。
ウクライナをめぐる現在の状況も、この文脈で捉える必要がある。トランプとの仲良しアピールによって、軍事行動を拡大せずとも、外交と交渉を通じて既成事実を積み上げることが可能となり、最後にプーチンが領土的利益を確保してしまう可能性が高い。西側諸国がこうした彼の手法を十分に理解しない限り、ロシアは「和やかな雰囲気の中での既成事実化」を繰り返し、結果として優位を築くことになる。
今後の対応には二つの条件が求められる。第一に、プーチン外交の「演出」と「実利」を厳格に区別し、表層的な友好演出に過度な期待を抱かないこと。第二に、西側が一枚岩となり、譲歩の余地を最小化すること。これなくしては、同様の構図が繰り返される。プーチンの暴走は止められない。