「お前が言うな」という言葉が、流行っているようだ。

 例えば、とても歌の下手な歌手に対して「音程がずれている」、「聞きたくない」と言ったり、「〇〇のダンスはカッコ悪い」と言ったりした場合に、情報番組やネット上の書き込みに出てくるという。

 しかし、それって論点も論理(筋)もおかしな言い方ではないだろうか。テレビに出て人々を楽しませたり感動させたりする仕事をする人に対して、「そのレベルに達していないので練習してから出てほしい」という趣旨のことを言うのは自然のことであろう。釘がうまく打てない大工さんに、まだ本番の仕事(実際に家を建てる仕事)に関わらせないことと同じである。

 似た意味で、「それならお前がやってみろ」という表現もよく言われるが、それも言った人は歌も踊りもできないから、仕事にもしていないしテレビにも出ていないのだが・・・。よくわからない言い方だ。

「お前が言うな」というのは、もしかしたら歌がうまい歌手が指摘するのであればよいということなのかもしれない。しかし、そうだとしてもおかしな話で、声量がなく音程のずれた歌、ダサい振り付けによって嫌な思いをしたりがっかりしたりするのはテレビの前の視聴者である。指摘するとしたら関係のない同僚の先輩歌手ではなく、直接被害(影響)を受けた者が行うのが当たり前であろう。

 政治や社会に対する意見に対してなど、音楽以外でも「お前が言うな」という言葉がよく使われるようになった。私には、カモフラージュされた新手の誹謗・中傷(根拠や論理に基づかない感情的反対)にしか見えない。