山口県阿武町が、一人の町民に対し誤って4630万円を振り込み、振り込まれた町民は「自分の口座の金を使って何が悪い」などと言ってネットカジノで全部使い果たし、逮捕された。この町民は小さいころから金への執着が強く、成人後もギャンブル依存症だったようだ。
今回の阿武町での事件では、逮捕されたこのギャンブル依存者は名前も顔写真も公になり、連日ニュースや情報番組で取り上げられ、彼の未来は役場の過失によって狂わされた。もう、輝かしい人生はないだろう。阿武町が適切な業務を行っていれば、彼の将来はめちゃくちゃにはならなかっただろう。
私事であるが、以前ネットで品物を注文し指定口座に振り込んだが商品が来ず、その会社に電話をしたら不通ということがあった。急いで銀行に電話をしたらその口座はもうないといわれ、警察に電話をしたらお金を取り戻すこともそのだました会社を探して捕まえることも警察はできないといわれ、「ああ、日本は犯罪者を探さずにそのままほおっておくケースもあるんだなあ。振り込んだら最後、お金は振込相手のものになるんだなあ」と初めてわかったことを思い出した。私や阿武町のギャンブル依存者のようにそう理解している人は大勢いるのではないのだろうか。実際、私は今でも振り込んでしまったらお金は相手のものになるのか、それとも取り返すこともできるのか、よくわからない。
阿武町のギャンブル依存者は、だまして阿武町に振り込ませたわけではない。ミスをした役場に過失があるという事実があり、それによってギャンブル依存者を苦しめ（目の前に餌をぶら下げ）、逮捕という不利益を被らせた。しかも自分の口座の金を使うことがわるいことなのか、わるくないことなのか、よくわからない国民も結構いるという社会現状の中で、彼が自分の口座の金をネットカジノで使ったことを責めることができるのだろうか。さらにいえば、彼が依存症の治療で精神科に入院中であった場合、病院から引きずり出してまで逮捕したのだろうか。役場の過失のせいで・・・。どちらが悪いのかは明白だろう。
もし本当に、あとで「振り込みは間違いだった」「振り込みは勘違いでミスだった」といえば振込金が戻るのであれば、それを行政手続きなど一部分に適応するのではなく、社会活動において一般市民の誰もがそうできるしくみにしなければいけない。そうでなければ、強い者（行政側）が弱い者（一般市民）をいじめるだけの構図で今回の事件は終わってしまう。
阿武町のギャンブル依存者は被害者で、一人の人生を狂わせた役場側の逮捕として終わる選択肢も見えてくるのではないだろうか。