国会事故調査委員会による福島第一原発事故の最終報告書が公表された。それには菅元総理について,次のような指摘がある。
①危機管理意識の不足を露呈指揮命令系統を破壊
②組織運営のノウハウも十分にない
③政府の総力の結集がむしろ困難になるような対応を取った
④指揮官の重責に必要な心構えが不足していた
⑤菅首相の現場視察は、現場の士気を鼓舞したというよりも、自己のいらだちをぶつけることで、むしろ作業に当たる現場にプレッシャーを与えた
①について
あの混乱時に指揮命令系統は存在しなかった。津波による福島原発の破壊や停電などで東電内でも現場と本店間で正確な連絡ができなくなり,だから本店から官邸へも情報が全くいかなかった。「意識」でどうこうできた話ではない。誰が命令系統を破壊したのか。それは菅氏ではなく,大地震や津波による現場の破壊や混乱,停電や通信施設の遮断,交通網の渋滞など,物理的なことが原因である。人ひとりの問題ではない。
②について
組織運営のノウハウ「も」十分にない。なぜ「が」ではなく,「も」としたのだろうか。単なる感情論になっていて,つまらない報告書にしてしまている。恨みさえ漂ってくる。
残念ながら,総理周辺の人材がよくなかった。素人や独善的な人々が多すぎた。菅氏のミスといえば「人材の選択」であり,組織運営の「ノウハウ」の問題ではない。組織運営を広範囲にとらえ人材選択まで含めての議論であれば確かに組織運営のノウハウがないと言えるが,事故調の②の意味はそういうことではないだろう。
③について
あの怪物のような東電に任せておけばよかっという意味か。国は国民や国土について責任を持つが,東電は国のことなど関係ないのである。単なる一つの会社なのだから,自分の会社だけがよければよいのだ。それは当然のことである。だから,そこに国の運命を任せることをしてはいけないのである。国が主導権を持って,一企業ではなく,国が真剣に日本国を守らなければならなかった。もし東電だけに任せていたら,多くの作業員が原発から撤退し,消防や自衛隊も行かず(あるいはかなり遅れて到着し),福島第一原発ひいては東日本は終わっていたであろう。
④について
一国の総理らしく,どっしりと官邸にいて総合的に情報を管理し命令をしているべきだったということだろう。それは,総理の取り巻きが経験豊かな人材で,情報がしっかりと官邸に届き,東電が誠意を持って事に当たっているという前提のもとの話である。前提が違うのだ。だから,④のような結論にはならないのである。
⑤について
あの時,ある程度の議員経験があり,国に対しての責任感を持ち,かつ命令権のある人が一人で頑張るしかなかったのである。菅氏には,たったひとりであの怪物会社の東電をコントロールし,よく国難を乗り切ってくれた,あなたこそこの国の救世主であると言いたい。
事故調のこの報告書は,内容的にも表現的にも客観的評価ではなく,かなり感情論になっている。ラジオでは,文学的表現が多いと話していた。これを今回の放射能大事故の結論にしてはいけない。この報告書は世界中のニュースにもなっている。報告書がおかしいので,もちろん各国で事故に対する的確なコメントはなされていない。
できるのであれば,前提を確認しながら根本原因と責任の所在を明らかにし,天災と人災を区別しながら改善点も含めて示すような報告書を,利益関係のない東大以外と東電生まれ以外の研究者たちによってまとめてもらいたいものである。