以前、校長が、「あの先生は、稼ぐなあ。」と感心したように言ったことを思い出した。「稼ぐ」、嫌な言葉である。なぜ、「働く」と言わないのだろうか。私には、この言葉に、日本で昔から続いている非文明国のゆがんだ価値観を感じるのである。
 ヨーロッパの国々では、当然のことながら、仕事よりも家庭を大事にし、残業などほとんどしないらしい(もちろん、傾向の話である)。教員も、授業以外の仕事はほとんどないと聞く。東大の教育学の教授は、「勤務時間を過ぎても学校で仕事をし、家族を大事にしないような人に、人を育てる資格はない」と話していた。
 未成熟の古い日本的発想はもうやめて、日本も全体的に労働時間を減らす傾向に行かないものだろうか。そして、長時間働く人を尊敬の目で見る社会ではなく、人として軽蔑をもって見る社会になれば、人々は人間らしい豊かな人生を送ることができるようになるし、社会もゆとりがあり質の高いものになっていくと思う。当然、「えらい。感心だ。」という意味を込めた「稼ぐ」という言葉なんかもいらない。