・毛越寺
「いやー、腕時計はもう三時十分を過ぎたよ。
(下山に)一時間もかかるとは思わなかったよ。
今頃、行列は金色堂かな。
本堂、金色堂でのお焼香が済んで、列が解かれたのかな」
「何事も無く、無事にここ(駐車場)に来れたんだから、良しとしないと」
「そうだね。行列はあっという間だったね。
目の前を五分、十分。いや三分かな。馬に乗る義経と稚児行列が印象に残るよ。
いやー、続くお坊さんも、着ている衣装、袈裟?、あんなにも色が有るんだと思いながら見て(い)た」
「義経も弁慶も恰好良かった。藤原秀衡の恰幅も良かったね」
「秀衡は中年太りだよ。でも、白髪頭が良かった。
あの鎧装束、義経も秀衡役も大変だったろうね。
重さ、何キロぐらいあん(る)のかな」
「ハハハ、知らないよ。
でも、これで(行列が終わったから)、車を出せそうだね」
ピーピーと駐車場の警備に立つ人の呼子があちこちから聞こえてくる。だが、その誘導に従えば良い。
「この人に、車だ物ね。まだ凄いね。
だけど、俺ん所(大東町)と同じで、平泉(町)も過疎化と高齢化が進んでいる町と聞いた」
千田の言うのを聞きながら、窓を開け車内の空気を入れ替えた。
誘導する人の指示に従った。本道に出られた。手を合わせたばかりの弁慶の墓の所在を示す標識も見えた。
「二、三分で毛越寺だ」
「平泉(町)の人口って、どのくらいなの?」
「七、八千人。そこにこの五日間で二、三十万人。
年間二百万人の観光客が来るって、昨夜の親父の話だ。
余禄でね。(芦)東山記念館や猊鼻渓に足を伸ばした観光客が、時折、(車や船の)酔い止めの薬や胃の薬を求めて来るとか言って(い)た。
平泉(町)が、大東町の半分以下の人口と聞いて吃驚したよ」
「千田の実家は薬局なの?
知らなかったな」
信号が多いなと思いながら後ろに乗る二人の会話に聞き耳を立てた。信号が青に変った。
「医療法人でも、佐々木の実家は病院経営。
たかだか町の薬屋とは違うからね・・・。
言い出しにくくもあったんだ」
「千田が医者を目指すことになった理由が、何となく分った」
「ハハハ、それを言うなら、俺なんか昔っからの和菓子屋の息子だからね。
二人は生まれながらに医療に関係している」
運転しながら自分の事を言った。二人は今晩は俺の所に泊まるのだ。
(義経)行列が終わったばかりの余波なのか。毛越寺を目の前にして渋滞している。
(駐車場に)着いたら俺が先に行って、拝観券を買うよ」
「有難う。そうして呉れ」
券売り場の前のカーブを過ぎると、直ぐに毛越寺の有料駐車場だ。広い。(駐車の)場所を探すに苦労はしなかった。傍に土産店も並ぶ。
「拝観券を買って来る」、
(車を)停めると、先に小走りに出た千田だ。その背中を見ながら佐々木と歩きだした。
「今、三時二十五分。小一時間、(毛越寺の)中を一回りして四時二十分にはここを出よう。
その後に。達谷窟に行きたいんだ。
拝観時間が五時までだから、それに間に合わせたい」
「移動にどれぐらいかかるの?」
「五キロぐらい先だから、何だかんだ十分は見ないとね。
見学(時間)も入れると三十分は見ないと・・」
「大槻玄沢と何か関係がある?」
「否、特にない。だけど早々見られる御堂じゃないからね。
折角来たんだ、案内したい」
「・・・」
