迷子 | raf[RAL]'s garden Ⅲ

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「こんな夢を見た。」



片手で足りるくらいの年の頃の僕は、

新しくできたデパートの1階で、

母親の手に引かれて、見よう見まねで、

大人のふりして、買い物気分を味わっていた。



当時はまだ、エスカレーターさえも、

小さな僕からすれば、驚くべき文明の利器で、

エスカレーターに乗るタイミングとか、

周りの視線なんかを気にしながら、乗り込んだ。



ゆっくりと、オートマティックに、

それでいて、着実にのぼっていく。



子どもながらに、心は躍った。

未だ見ぬ2階の景色まで、あと少し。

白い蛍光灯が延々と続くはずの、

あの真っ白なフロアまで、もう少し。



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のぼり終わった!

同じように時の流れるフロア、

確かに遠くまで続きそうな蛍光灯の道しるべ。




ふと、異変に気づいた。

僕は一人になっていた。



2階に上がったときからなのか。

何が何なのか、全然わからない。

母親の姿は、一向に見えない。



どこに。あれ。

僕はどこ。だれ。





さっきまで、僕は、

あんなに2階の景色への期待に

胸をわくわくさせていたはずなのに。



そばにあったものが消えた瞬間、

その未知は一溜りもなく畏怖の念に苛まれ、

迷子という認めがたい現実に閉じ込められた。



そして、恐怖・心配という概念は豹変し、

いつしか母への怒り・猜疑心へと変わり、

正しいはずの僕の神経を逆撫でた。





エスカレーターを逆方向に駆け下りた。

どこにいるんだ。全然わからない。

すれ違う人々、全員が怪しくも見える。



トイレか。食料品売り場か。化粧品か。

どうして。どうして僕をおいて消えた。

僕の何が気を悪くさせてしまったんだ。



もしや、僕のことが嫌いだったのか。

本当は、いなくなればいいと思っていたのか。

本当は僕じゃなくて、お兄ちゃんのことが好きで、

僕のことは邪魔者と思っていたのか。



焦れば焦るほど、ネガティブな考えばかり膨らみ、

周りも見えないくらい、

涙が乾くことも忘れるくらい、

闇雲に走り続ける、小さな僕がいた。



誰でもいい。

誰か僕を助けてくれないか。





ふと見つけた、1階角に靴の修理場。

カウンターに店員らしき顔が見えたので、

「僕のお母さん、知りませんか」とたずねた。



すると、その顔がゆっくりと振り向いた。



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その顔は、

焦げ茶色に染まった、

生首だった。