『自衛隊を国民から遠ざけていいのか?』
アール久美子
12月27日(木)
「スイスは国民が自国を守る 上」
自衛隊員の迷彩服が戦争をイメージさせ、不安を与えるという理由で、日本では自衛隊のイベントが中止になったと聞いた。同じような理由から、航空自衛隊機の航空ショーまでも中止を求められているようで、国が違えばこれだけ事情が違うのかと驚かされた。
徴兵制のスイスでは、自宅への行き来も含め、兵役に就いている時の移動は軍服または迷彩服の着用が義務付けられており、駅やバス停などで軍服や迷彩服の人を頻繁に見かける。スマートな外出用の制服を着ている人もいれば、迷彩服で完全装備した人もいる。また、喫茶店などで友人たちと会っている兵士も見かける。
かと言って、スイス人が戦争に慣れているわけでもなければ、戦争を支持しているわけでもない。日本人と同じようにスイス人も戦争に当然、反対である。旧ユーゴスラビアの内戦では多くの難民がやって来たこともあり、戦争の悲惨さを身近で見ている。最近ではウクライナ紛争もあり、あっという間に紛争が起きるという現実も知っている。
北朝鮮のミサイルテストと挑発が盛んであった昨年は特に、スイスの民間防衛が日本でよく取り上げられたと耳にした。永世中立国でハイジの国として知られるスイス。ここで改めて書くまでもなく、平和で牧歌的な国をイメージする人が大勢だと思う。
“徴兵制のスイス”
中立国ということで、誰からも攻められないと思っている人も以前は多かったようだが、最近は、徴兵制のある国ということもかなり知れ渡ってきたようである。また、中立ということから外国に兵士を派遣しないと思っている人もいるようだが、日本と同じように治安維持のためにスイス兵を派遣している。
旧ユーゴスラビアには自己防衛できる装備をしたスイス兵が派遣されているし、日本に身近な所では、北朝鮮と韓国の非武装地帯に5人のスイス人将校が駐留している。中立といえども、国際社会に貢献できると思えば行動するし、中立であるからこそ貢献できることもあるので、自国の利益を考えた上で対応するのがスイス人の政治感覚のようである。
国民皆兵制を採用しているということは、国民が自国を守るということである。もし自国の独立を守れないのであれば、中立の立場を取ることはできず、周辺国のどこかに支配されることになる。
ましてやスイスのように多言語の国で、周辺国の文化圏をよく理解する国においては、周辺国同士の争いの際に、どちらの勢力側につくかという決定も難しくなるであろう。下手をすれば敵に攻められる前に自国内部から崩壊する危険もある。そういうことを踏まえれば、誰にも加担せず、そして誰にも支配されないという強い意志を持つことが大切である。
12月28日(金)
「スイスは国民が自国を守る 下」
もちろん意思のみならず実行を伴うことが重要である。冷戦後、明確な敵の存在がなくなり、他の欧州の国々と同じようにスイスも軍縮政策を取っている。しかし、徴兵制を廃止した国が多かった中で、スイスは国民皆兵制を維持している、日本の現在の状況とは違い、スイス周辺の国々を見れば、敵国になりそうな雰囲気はないが、いつ何時どうのような事態になるかもしれないという最悪の事態に備え、直ぐに体制を整えられる準備は怠らないということである。
それ故に、スイス国籍の他に隣国の国籍を持つ2重国籍者に対しては、両国での兵役を認めていない。要は、どちらか一方を選択しろということである。また、国民皆兵制を通して、国を守るという意識を社会全体が共有し維持することが根底にあり。、国民がスイス軍を非常に身近に感じる要因の一つになっていると思う。
フランスのマクロン大統領は徴兵制復活を発表したが、この目的も同じように徴兵制による直接的な軍隊強化よりも、国を守るという国民の意識の高揚と、社会の結束を図ることを目指しているようだ。ドイツでも徴兵制の復活が最近、議論に上がってきている。
徴兵制というと戦場に送られる兵士ばかりをイメージするが、それは国民皆兵制の一部であり、身体的に兵役に就けない者は民間防衛に、それも無理な場合は負担金を払うというふうに、国防義務を負っているのが国民皆兵制である。
当然のことながらスイス軍は、スイス国民にとって非常に身近な存在であるが、国民向けのイベントを通して、軍の現在の様子を知ってもらう努力も行っている。日本の場合は、国を守る組織として自衛隊があるが、国民と自衛隊との距離が必ずしも近いとはいえないだろう。
戦争をイメージさせるかどうかの前に、国を守る組織である自衛隊を間近で見て知ることが大切ではないだろうか。そのためのイベントであり、そのイベントさえも中止に追い込んだのでは、自衛隊に対する国民の理解が一向に進まない。いざという時に自分たちを守ってくれる自衛隊を知っておくことは当然のことと思う。
スイス軍も日本の自衛隊も自国を守るための組織であり、国を守る任務に就いている人が仕事着である迷彩服を着用していることに何の問題があるのだろうか。自国を守る意識の薄い日本において、自衛隊が国を守らずに、誰が国を守ってくれるのか?
スイスのように周辺に敵視する国がない状態でさえも、いざという時に備えている。ましてや日本周辺の現状を見れば、自衛隊から戦争をイメージするかどうかの前に、いざという時に自衛隊がしっかり守れるかどうか、そちらを知ることのほうが先ではないだろうか。