空がどんより灰色で

いまにも雨が降り出しそうな天気


雨の匂いがする





彼と初めて会った日も

こんな感じの空模様だった




「ごめん、待った?」







突然声をかけられて


思わず体がビクッてしてしまった



「ううん、大丈夫」



私の反応をみて

くすくす笑ってるけど




なんとなく雰囲気がいつもより

ピリついてると感じた


「行きたいとこがあって」


「懐かしいとこなんだけどさ」








って言って彼は少し前を歩き始めた



懐かしい場所



どこだろう



電車に乗って2駅先

そこから少し歩いて向かう




あぁ

もうこの道が




「懐かしいね」

「ふたりで何度も歩いたよね」







振り返って私を見て

彼が嬉しそうにそう言った



カズも覚えていてくれたことに

自分が喜んでるのがわかる



「はい、つきましたね」




何度もふたりできた喫茶店

もう10年以上経つのに

まったく変わってなくて



私たちは変わってしまったのに



カランカランって

懐かしい鈴の音で扉を開けて


カズはなんの迷いもなくそのまま

1番奥の窓際の席に座る



そう

ふたりのお気に入りの席



まさかまたこの席に座る時がくるなんて



“別れよう”


そう伝えたのもここだった




「舞桜」










呼ばれて気がついて

腰をかけた



私もカズもメニューも開かずに

あのときと同じお気に入りを注文した



マスターが席を離れて


私はすぐにお冷をもらった

緊張してカラカラの喉に冷たい水が染みる



息を吐いて彼を見る






あの頃と変わらない

澄んだ瞳が私を見る







やっぱり


来るべきじゃなかった




少しずつ


また


溺れてく