この本の副題をここに書くのにいったい何分かかったか!
実はこの「沙楼綺譚」の「楼」は本の字と違う。見つけられなかった。
IMEパットで、総画で探したりいろいろしたけれど、どうしても見つからないので作者の作品名の検索をかけました。
本のサイトでも「楼」を使っているのであきらめてこの字を使いました。

浅田次郎は大好きな作家です。
文学を講じる人たちは軽んずる傾向があるけれど、私は今の日本の男性作家の中でこの人ほど「エンターティナー」だと思う人はいません。

彼は純文学もかけるし、娯楽小説を描かせたらぴか一。
「プリズンシリーズ」とか読んで「霞町物語」や「蒼穹の昴」などを読むと同じ作家なのかと感心します。
彼は中学生のときから小説家になろうと心に決めていたといいます。
大学中退してからはいろんな職業を遍歴して書き続けました。
三島由紀夫を師と仰いでいたようです。
その彼が、自衛隊に入っていた時に三島が割腹自殺したその部屋の血に濡れた床を片付けたのは、人生のどういう回り合わせだったでしょうか。

この作品は各界の高みに登りつめた名士たちがミステリアスな女装の女主人の高層サロン「沙楼」に集い、今までの人生の中で体験した、語らずにはあの世に行けないと思うような「最も恐怖し、最も歓喜した」秘密を語るのです。

女主人の決まり文句は
「さて、今宵もみなさまがご自身の名誉のために、また、ひとつしかないお命のためにけっして口にすることのできなかった貴重なご経験を、心ゆくまでお話くださいまし。語られる方は誇張や飾りを申されますな。お聞きになった方は、夢にも他言なさいますな。あるべきようを語り、巌のように胸に蔵う(しまう)ことが、この会合の掟なのです」
(ここでわたしの頭の中ではこのセリフは「美輪明宏」さんの声になる。)(笑)

この決まり文句の後に、一夜で3,4人の怖ろしく、歓喜する体験が語られていくのです。
今回の収録は
「宰相の器」
「終身名誉会員」
「草原からの使者」
「星条旗よ永遠なれ」です。

この中の「草原からの使者」が題名になっていて、わたしの記憶にもある大井競馬場から出た無敵の名馬「ハイセーコー」が日本ダービーで走ったときの事が描かれています。(「走れ、走れ・・」の歌までありましたよね~)

人がTOPに立つのに何が必要か?
頭脳?誠実さ?・・・いやいや「運」だ。と死にいこうとする主人公の継父が言います。
財産を分割することは絶対だめだという彼の経済理念も興味深い。

彼の小説を読んでいるといつも思うのですが、人には人智の及ばぬ大きな何かがどこかで見ていると・・
やっぱりこの作家は好きだなあ。
今も座り続けて畳がへこむと移動しながらかいているのでしょうね。
彼の小説を読んでいると「人間ってまんざら捨てたものじゃないな」と心が浄化される気がするのです。

そして映画の好きな私は、キャストを想像してしまいます。