「うちの子も、最近は毎日いろんなことができるようになってきて、大変なことも多いですけど、やっぱりかわいいんですよね」

山本さんは、優しい笑顔でお子さんの話をしてくれました。


きっと、何気ない日常の話をしてくれただけ。

それなのに、わたしは笑顔でうなずきながら、心の中では別のことを考えていました。


いいな……。

子供がいて。

帰る場所に家族がいて。

毎日の中に小さな幸せがあって。

わたしだって、そんな未来が欲しかった。

手に入ると思ってた。


佐藤さんと一緒に、家族になりたかった。

いつか子供ができたら、どんな顔をするんだろう。一緒に子育てをして、家族で出かけて、何気ない毎日を過ごして。

そんな未来を、勝手に想像していたこともありました。

でも、今のわたしには何もありません。


そう思った瞬間、山本さんへの羨ましさが、胸の中にじわじわと広がっていきました。

どうして、わたしじゃないんだろう。

どうして、わたしはまだこんなところで立ち止まっているんだろう。


山本さんは何も悪くない。

なのに…

「……ななさん?」

気づけば、わたしは黙り込んでいました。

「あ、ごめんなさい、ちょっと考えちゃって」

慌てて笑顔をつくると、山本さんは優しく言いました。

「無理して笑わなくても大丈夫だよ」

その言葉に、今にも涙がこぼれそうになりました。


次回へ続きます。



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