溢れる涙を拭うこともせず、わたしはふと部屋の中を見回しました。
部屋はいつもと何も変わっていない。
テーブルもソファも。
さっきまで見ていたテレビも。
全部、いつも通りなのに、わたしの中だけが、何か大きなものを失ったような感じでした。
「……別れたんだ」
声に出してみるとその言葉が現実のものになってしまう気がして、また涙が出ました。
さっきまで電話で話していたのに。
ちょっと前まで、佐藤さんの声を聞いていたのに。
もう恋人じゃない。
そう思った途端、胸が苦しくなりました。
佐藤さんにLINEを送りたい。
繋がりたい。
もちろん、今すぐ何か送るわけにはいかない。
「別れよう」
と言われたばかりなのだから。
それでも、指が勝手に文字を打とうとしました。『やっぱり別れたくない』
そこまで入力して消しました。
もう一度
『待ってるから』
そこまで入力してまた消しました。
「……何してるんだろう、わたし」
スマホを伏せました。
そして、ようやく立ち上がりました。
お風呂に入らなきゃ。
明日も仕事がある。
お風呂に入って。
歯を磨いて。
布団に入る。
いつもの夜と同じことをしなきゃ。
たとえ佐藤さんと終わった夜でも。
次回へ続きます。