駅から自宅までの道を、わたしはゆっくり歩きました。
いつもなら、仕事終わりのこの時間は疲れていて、一刻も早く家へ帰りたいと思うのに。
今日は、なぜか少しだけ足取りが重く感じます。
佐藤さんに会えなかった。
その事実が、時間が経つほどじわじわと胸へ広がっていきました。
「仕方ない」と思おうとしていました。
電車が止まったのは、誰のせいでもない。
明日も二人とも仕事がある。
遅い時間に無理をして会うより、今日は帰った方がいい。
それでも
本当は会いたかった。
顔を見たかった。
声を聞きたかった。
色々あってやっと一日を終えたところだったんです。
だから、佐藤さんに会って、少しだけ甘えたかった。
そんなことを考えながら歩いていると、自宅が見えてきました。
玄関のドアを開けます。
「ただいま」
もちろん返事はありません。
靴を脱いで、バッグを置きます。
部屋の電気をつけると、静かな部屋が目に入りました。
いつもの部屋。
いつもの夜。
なのに、妙に寂しく感じます。
スマホを取り出すと、佐藤さんとのトーク画面が開きました。
最後に届いた、
『今日は残念だけど、無理しないで帰ろうね』
というメッセージ。
その文字をもう一度見つめます。
「……うん」
帰ってきたよ。
そう伝えたくなって、スマホを操作します。
『今、家着いたよ』
送信。