仕事中は何とか大丈夫だった。
笑顔も作った。
お客様にも普通に接した。
近藤さんに
「大丈夫?」
と聞かれても
「大丈夫です」
と答えた。
でも、それは本当に大丈夫だったわけじゃない。
ただ、仕事だから。
今日を終わらせなければいけなかったから。
それだけだったんです。
スマホの画面に表示された
『今日会える?』
という文字を見つめていると、胸の奥がじわっと熱くなりました。
会いたい。
きっと佐藤さんの顔を見たら、また泣いてしまう。そんな気もしました。
でも、それでもいい。
今は、強がらなくてもいい場所に行きたい。
「……会いたい」
誰もいない駅までの道で、小さくつぶやきました。そして、返信画面を開きます。
『うん、会えるよ』
文字を打ったところで、指が止まりました。
これだけでいいのかな。
本当は
「会いたい」
って言いたい。
でも、なんだか恥ずかしい。
しばらく悩んだあと、私はもう一度文字を打ち直しました。
『うん、会えるよわたしも会いたい』
送信。
送ってしまった瞬間、急に恥ずかしくなりました。
「何書いてるんだろ……」
スマホを胸元へ抱えて、思わず苦笑いします。
すると、すぐに返信が来ました。
『よかった』
たった四文字。
でも、その言葉を見ただけで、また泣きそうになりました。
きっと佐藤さんも、今日一日ずっと気にしてくれていたんだ。
私がちゃんと仕事へ行けたのか。
ちゃんと眠れたのか。
生理が来て、どうしているのか。
そんなことを考えてくれていたのかもしれません。
『どこで会う?』
そう送ると
『ななの職場の最寄り駅まで迎えに行くよ』
と返ってきました。
その瞬間、胸の奥がふっと温かくなりました。
朝はあんなに長く感じた一日。
仕事へ行くのも嫌だった。
何をしていても気持ちが重かった。
でも今は、佐藤さんに会える。
そのことだけで、ほんの少しだけ足取りが軽くなっていました。
昨日の結果が変わるわけじゃない。
一本線だったことも。
今日、生理が来たことも。
何一つ変わらない。
それでも、一緒に悲しんでくれた人が、今日も私に会いたいと思ってくれている。
それだけで、少し救われる気がしました。
歩きながら私はスマホをもう一度見ます。
画面には、佐藤さんとのトーク画面。
『駅着く五分くらい前に連絡するね』
その文字を見つめながら、私は小さく息を吐きました。
今日は、もう少しだけ甘えてもいいのかもしれない。
昨日からずっと頑張ってきたんだから。
でも、このあと佐藤さんに会ったら、私はきっと聞いてしまう。
昨日の結果を見たあと佐藤さんは、何を思っていたのか。
本当はどんな気持ちだったのか。
そして――これから私たちは、どうしていくのか。そんなことを考えながら、私は佐藤さんとの待ち合わせ場所へ向かいました。
次回へ続きます。