「これ、在庫ありますか?」

お母さんが先程の商品のピンク色の物を手に取りながら尋ねます。

「確認いたしますね」

笑顔を作って、在庫を確認します。

幸い在庫はありました。


「在庫ございます」

「ありがとうございます」

そう言って、お母さんが女の子へ振り返ります。「良かったね」

「うん!」

女の子が満面の笑顔を見せました。


その笑顔を見た瞬間、胸の奥が、ズキッと痛みました。

ただ可愛いとだけは思えなかった。

小さな手。

小さな声。

お母さんを見上げる顔。

全部が、自分の心の柔らかいところへ入り込んできます。

わたしも。

いつか。

そんなことを考えてしまいました。


シリンジ法を試した日から昨日までは、もしかしたら自分もこうなるのかもしれないと思っていた。

お腹の中に小さな命がいて、佐藤さんと一緒に喜んで。

そのことを少しずつ家族へ伝えて。

いつか、この子みたいな小さな手を握る日が来るのかもしれない。

そんな未来を、ほんの少しだけ想像していました。でも昨日、判定窓に浮かんだのは一本線でした。

そして今朝、生理が来ました。

その事実を、改めて突きつけられたような気がしました。


「こちら、お包みしますね」

「お願いします」

お客様との会話を続けます。

笑顔。

声のトーン。

お辞儀。

全部、いつもどおり。

でも、心の中では全然違うことを考えていました。


どうして。

どうしてわたしにはできないんだろう。そんな考えが、ふっと浮かびます。

この人たちは、何も苦労しなくても子どもができたのかな。

もしかしたら、この人たちだって見えないところで苦労したのかもしれない。

人にはそれぞれ事情がある。


「ありがとうございました」

お客様が商品を受け取り、女の子の手を引いて店を出ていきます。

「バイバイ!」

女の子がこちらへ手を振りました。

わたしも笑顔で手を振り返します。

「ありがとうございました」


徐々に家族の姿が見えなくなります。

それなのに、胸の痛みだけは残ったままでした。

泣いちゃダメ。

ここは職場。

お客様がいる。

泣く理由なんてない。

そう思えば思うほど、目の奥が熱くなってきます。



次回へ続きます。