そんなことを考えていると

プルルルル……

また電話が鳴りました。

「わたし出ます!」

今度は少しだけ手が空いていたので、急いで電話を取ります。


「お電話ありがとうございます――」

そう名乗り終えた瞬間、聞き慣れた声が耳へ届きました。

「あっ……高橋さん?」

店長でした。

思わず背筋が伸びます。


「お疲れさまです

ごめん……」

その声はいつも弱々しく聞こえました。

体調が悪いと電話してくる時の声です。

「どうしても今日は無理そうだから……休ませてもらっていいかな……」

一瞬、言葉が出ませんでした。


やっぱり。

そんな気持ちと、本当に具合が悪いのかもしれない。

そんな気持ちが頭の中でぶつかります。

「……分かりました」

それしか言えませんでした。

「本当にごめんね」

「お大事になさってください」

今日一日、店長は来ない。

つまり、遅番スタッフが来るまで二人で回さなければいけないということです。

胸の奥がずしんと重くなりました。


早番スタッフへ事情を伝えると、その人も一瞬だけ表情が曇ります。

「そうなんだ……」

でも、すぐに笑顔を作って言いました。

「やるしかないね」

「……そうですね」

そう答えながらも、心の中では複雑でした。

昨日は妊活。

今日は仕事。

どちらも思いどおりにはいかない。

なんでこんなに次から次へといろんなことが起きるんだろう。

そう思った、その時でした。


入口付近から大きな音が響きます。

ガシャーン!店内にいた全員が一斉に振り向きました。

棚の上にディスプレイで飾っている、商品を着せている上半身だけのマネキンが通路に転がっています。

「あっ……ご、ごめんなさい!」

お客様は真っ青な顔で立ち尽くしていました。

わたしは慌てて駆け寄ります。

「大丈夫ですよ! おケガはありませんか?」

「持ち上げたら手が滑っちゃって……本当にごめんなさい」

「そのままで大丈夫です!」

幸いお客様はケガもなく、マネキンの破損もありませんでした。


今日は本当に、何かがおかしい。

そんなことを思いながらも、目の前のお客様を待たせるわけにはいきません。

悲しんでいる暇も、立ち止まっている暇もない。


わたしはもう一度笑顔を作り、自分へ小さく言い聞かせました。

「今日を乗り切ろう」

ただ、それだけを目標にして。



次回へ続きます。