もちろん、本当に体調が悪い日もあるのかもしれません。

だから決めつけるつもりはありません。


それでも、何度も同じことが続くと、どうしても思ってしまうんです。

「またか……」


そして、わたしが一番引っ掛かっているのは、そこじゃありません。

店長が体調不良になるタイミングです。

不思議なくらい、店を開けなければならない早番の日にはない。

閉店作業を最後までやらなければいけない遅番の日にもない。

必ずと言っていいほど、中番の日。

誰かがフォローできる日なんです。


今日もそうでした。

今日は早番スタッフがすでに出勤していて、店長とわたしが中番。

そして夕方から遅番スタッフが一人来るシフト。


店長が来るまでの時間は、人手が一人足りない状態になります。

店は回る。

回るけれど、その分、残った人が走り回ることになる。

「今日は忙しくなりそうだな……」

思わずため息が漏れました。


昨日まで妊活のことで頭がいっぱいだったのに。

今日は気持ちを整理する暇もなく、仕事モードへ切り替えなければいけません。


乗り換え駅のホームへ入ると、電車がちょうど入ってきました。

乗り込んだ、その時です。


「すみません!」

大きな声が聞こえました。

前からはスーツ姿の女性がキャリーケースを引きながらホームを走っています。

電車のドアが閉まりかけています。

間に合わない。


そう思った次の瞬間、その女性が足を滑らせました。

「あっ!」

キャリーケースが大きく傾き、女性の体も前へ倒れ込みます。

とっさに近くにいた男性が腕をつかみ、転倒する寸前で支えました。

「大丈夫ですか!」

駅員さんもすぐに駆け寄ってきます。


その間に、無情にもドアは閉まり、わたしが乗った電車は発車しました。 

女性はその場で肩を落とします。

助けてくれた男性へ何度も頭を下げていました。


その光景を見て、わたしは朝の横断歩道での出来事を思い出します。

今日はみんな、どこか余裕がない。

急いでいる人。

焦っている人。

そして、心に余裕をなくしているわたし。


一歩間違えれば、大きな事故になっていたかもしれない出来事を立て続けに見て、胸がざわつきました。

「今日は、本当に気を付けよう」

自分にそう言い聞かせます。


昨日の悲しみは、まだ消えていません。

店長へのモヤモヤも消えません。

でも、だからといって周りが見えなくなってしまったら、もっと大切なものまで失ってしまう。


そう思いながら、わたしは電車に揺られ職場へ向かったのでした。


次回へ続きます。