佐藤さんのお家を出る頃には、外はすっかり夕暮れになっていました。


さっきまで泣いていたせいか、目は少し熱くて、頭もぼんやりしています。

検査薬は一本線。

何度見ても、結果は変わりませんでした。


玄関を出る時、佐藤さんがそっとわたしの手を握りました。

「駅まで送るよ」

「うん」

それ以上、お互いに多くは話しませんでした。


今は無理に元気を出そうとするより、静かに隣を歩いてくれることが、何よりありがたかったんです。住宅街を抜け、駅前へ向かいます。


夕方ということもあって、人通りはいつもより多く感じました。

買い物帰りの人。

仕事帰りの人。

そして、小さな子どもを連れた家族。

その光景が、今日はやけに目へ飛び込んできます。


見ないようにしよう。

そう思えば思うほど、目で追ってしまう自分がいました。


その時です。

「ママー!」

突然、小さな泣き声が聞こえました。

振り向くと、二、三歳くらいの男の子が一人で立っています。

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、周りを見回していました。


「どうしたの?」

佐藤さんがしゃがみ込んで優しく声を掛けます。

男の子はしゃくり上げながら言いました。

「ママ……いなくなっちゃった……」

辺りを見渡しても、それらしい大人の姿は見えません。


「迷子かな」

わたしが言うと、佐藤さんは頷きました。

「駅員さんのところへ行こうか」

佐藤さんが男の子へ優しく話し掛けます。

男の子は泣きながら小さく頷きました。

わたしたちは駅の案内所まで一緒に歩きます。


途中も男の子は何度も

「ママー!」

と叫びながら泣いていました。

その声を聞くたび、胸が締めつけられます。


駅員さんへ事情を説明すると、すぐに館内放送をしてくれることになりました。

「少し待ってみましょう」

そう言われ、男の子と一緒にベンチへ座ります。



次回へ続きます。