佐藤さんのお姉さんが言ってくれた言葉。
「きっと素敵なお父さんとお母さんになるんだろうね」
その言葉を聞いた時、わたしは未来を想像しました。
家族写真の中に、小さな命が増えている未来を。
でも、その未来は、今日ではありませんでした。
気付くと、ぽろりと涙がこぼれていました。
一粒。
また一粒。
止めようと思っても止まりません。
「ごめん……」
何に対して謝っているのか、自分でも分かりませんでした。
佐藤さんに。
それとも、自分自身に。
ただ、謝ることしかできなかったんです。
すると、隣にいた佐藤さんが静かに首を横へ振りました。
「謝らなくていい」
その声は、とても優しくて、とても静かでした。
「でも……」
「ななさん」
わたしは顔を上げます。
佐藤さんも、判定窓を見つめていました。
きっと佐藤さんだって期待していたはずです。
きっと佐藤さんだって、少し落ち込んでいるはずです。
それなのに
「一緒に頑張った結果だよ」
そう言って、わたしの手をそっと握ってくれました。
「今回は、この結果だった」
悔しそうに少しだけ笑いながら続けます。
「でも、俺は今日までのことが無駄だったなんて思わない」
その言葉を聞いた瞬間、涙があふれました。
「ごめん……」
また同じ言葉が口からこぼれます。
「だから謝らないで」
佐藤さんは少し困ったように笑いました。
「俺まで悲しくなる」
その一言で、わたしは声を上げて泣いてしまいました。
嬉し涙じゃない。
悔し涙。
期待していたからこそ流れる涙でした。
佐藤さんは何も言わず、ただ隣にいてくれました。背中をゆっくりとさすってくれました。
「今日は泣いていい」
その言葉に、張りつめていた気持ちが一気にほどけます。
「いっぱい期待しちゃったもんね」
わたしは何度も頷きました。
期待しないなんて、無理でした。
毎日検索して。
体調の変化に一喜一憂して。
眠れない夜を過ごして。
ここまで二人で待ってきたんです。
期待しない方が難しかった。
しばらく泣き続けたあと、少しだけ落ち着きを取り戻したわたしは、もう一度判定窓を見ました。
結果は変わりません。
一本線。
その小さな一本線を見つめながら、わたしは静かに思いました。
悔しい。
本当に悔しい。
でも、この悔しさも、悲しさも、一人で抱えているわけじゃない。
それだけが、今のわたしを支えてくれていました。
佐藤さんは静かにわたしの手を握りながら言います。
「また、一緒に前を向こう」
その言葉に、わたしは涙でぐしゃぐしゃになったまま、小さく頷きました。
今日は泣いてもいい。
でも、また笑える日が来ると信じたい。
そう思いながら、わたしたちはしばらく寄り添ったまま、静かな時間を過ごしたのでした。
次回へ続きます。