「……ダメ」
思わず小さな声が漏れました。
「やっぱり怖い」
その言葉を口にした瞬間、胸の奥へ押し込めていた不安が一気にあふれ出しそうになります。
もし陽性だったら。
夢みたいに嬉しい。
でも、もし陰性だったら。
また検索して。
また落ち込んで。
また一から頑張る日々が始まるのかもしれない。
その未来を想像しただけで、胸が締めつけられました。
佐藤さんは何も急かしません。
「うん」
ただ、それだけ答えてくれました。
「怖いよね」
否定も励ましもせず、ただ受け止めてくれる。
その優しさが、今のわたしには何よりありがたかったんです。
わたしは何度も深呼吸をしました。
吸って。
吐いて。
もう一度吸って。
それでも心臓は少しも落ち着きません。
「こんなに緊張するものなんだね」
思わず笑うと、佐藤さんも笑いました。
「俺も人生で一番緊張してるかもしれない」
「本当に?」
「うん、仕事で大きなプレゼンした時より緊張してる」
その言葉がおかしくて、思わず吹き出してしまいました。
「そんなに?」
「そんなに」
二人で笑い合います。
笑っているのに、目には涙が浮かびそうでした。
ここまで、本当に長かった。
排卵日を迎えた日。
初めて挑戦したシリンジ法。
毎日のように検索したこと。
お姉さんの家族に会ったこと。
「素敵なお父さんとお母さんになるんだろうね」
と言われて胸がいっぱいになったこと。
妊娠検査薬を一緒に買いに行ったこと。
佐藤さんの部長と鉢合わせしたこと。
そして、さっきの警察の訪問。
全部が今日へつながっている。
そう思うと、自然と涙が込み上げてきました。
「ななさん」
佐藤さんが静かにわたしの名前を呼びます。
顔を上げると、優しい笑顔がありました。
「一緒に見よう」
その一言だけで十分でした。
一人じゃない。
この結果は、一人で受け止めるものじゃない。
ここまで二人で歩いてきたように、この瞬間も二人で迎えたい。
そう思えました。
わたしはそっと頷きます。
「せーので見る?」
佐藤さんが少し照れくさそうに聞きます。
「うん」
「じゃあ……せーの、で」
二人とも検査薬へ手を伸ばきました。
わたしの手の上へ、佐藤さんの手がそっと重なります。
その温もりを感じながら、わたしたちはゆっくりと検査薬の上に見えないように掛けたティッシュを取って、検査薬を持ち上げました。
「せーの――」
その瞬間。
わたしたちは、ゆっくりと判定窓へ目を向けたのでした。
次回へ続きます。
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