玄関の方から聞こえていた話し声が、少しずつ遠ざかっていきました。
「失礼しました」
警察の方の声。
「ありがとうございました」
佐藤さんの声。
そして、玄関のドアが閉まる音が静かな部屋へ響きました。
……帰ったのかな。
わたしはトイレの中で、しばらく動けませんでした。
妊娠検査薬の結果を見る直前だったことも忘れてしまうくらい、頭の中はさっきの出来事でいっぱいです。
警察。
お母さん。
連絡が取れない。
身分証。
無線。
いろいろな言葉が頭の中をぐるぐる回っていました。
恐る恐る鍵を開け、ゆっくりとドアを開けます。
廊下へ出ると、玄関の前に立っていた佐藤さんがこちらを振り返りました。
目が合った瞬間、お互い思わず苦笑い。
「びっくりしたね」
佐藤さんが力なく笑います。
「……うん」
それしか言えませんでした。
「大丈夫だった?」
そう聞かれても、何が大丈夫なのか、自分でもよく分からないくらい混乱しています。
「警察って聞こえたから……何が起きたのかと思って」
正直にそう伝えると、佐藤さんは申し訳なさそうに頭をかきました。
「ごめんね。俺も本当にびっくりした」
そう言ってリビングへ戻り、ソファへ腰を下ろします。
わたしも隣へ座りました。
さっきまでそこにあった妊娠検査薬。
まだテーブルの上に置かれたままです。
数分前までは、その検査薬しか見えていなかったのに。
今は、それを見る余裕すらありませんでした。
次回へ続く。