一人だけじゃない。
同じように、この3分を長く感じている人が隣にいる。
それだけで、不思議と安心できたんです。
タイマーへ目を向けます。
「まだかな」
「あと45秒だよ」
「45秒って長いね」
「今日は特にね」
二人で苦笑いしました。
何か話そうとしても、話題が見つかりません。
話し始めても、結局二人とも検査薬を見てしまうんです。
「これ……」
わたしが口を開きました。
「もし結果が出たら、人生で一番忘れられない数分になるね」
その言葉に、佐藤さんは静かに頷きます。
「そうだね」
「今日のこと、多分一生覚えてる」
「俺も」
短い会話なのに、胸がいっぱいになります。
ここまで長かった。
排卵日を意識して過ごした日。
初めてのシリンジ法。
検索ばかりしていた毎日。
お姉さん家族と過ごした温かい時間。
妊娠検査薬を一緒に買いに行った日。
その全部が、この三分につながっていました。
わたしは無意識に両手をぎゅっと握ります。
すると、佐藤さんがそっとその手へ自分の手を重ねてくれました。
何も言いません。
ただ、温かい手のぬくもりだけが伝わってきます。そのぬくもりに触れた瞬間、張りつめていた心が少しだけほどけました。
「ありがとう」
小さくつぶやくと
「こちらこそ」
佐藤さんも静かに笑います。
その時でした。
スマホにセットしたタイマーが鳴りました。
「ついにだね」
佐藤さんが小さな声で言います。
わたしは息をのみながら、ゆっくりと頷きました。
いよいよ。
数分前までは想像するしかなかった答えが、今、目の前にあります。
期待。
不安。
願い。
いろいろな感情を胸いっぱいに抱えながら、わたしは同時に検査薬へ手を伸ばしたのでした。
次回へ続きます。