妊娠検査薬を手に持って、ゆっくりとトイレへ向かいました。 

廊下を歩くだけなのに、足がふわふわしているような感覚です。

ここまで何日も待ってきた。

早く知りたいと思っていた。

なのに今は、一歩進むたびに

「まだこのままでいたい」

そんな気持ちまで湧いてきます。


結果を見る前なら、まだ希望も不安も半分ずつ。

でも結果が出てしまえば、どちらか一つになる。

その境界線へ向かって歩いているんだと思うと、胸が苦しくなりました。


トイレの前まで来て立ち止まります。

検査薬を握る手を見つめながら、大きく深呼吸しました。

「大丈夫」

自分へ言い聞かせるようにつぶやきます。


後ろから佐藤さんが静かに声を掛けてくれました。「終わったら呼んで」

「うん」

「慌てなくていいからね」

優しい声を背中で聞きながら、わたしはトイレへ入りました。

ドアを閉める音が、やけに大きく響きます。

鍵を掛ける手まで震えていました。

検査薬を取り出し、説明書をもう一度開きます。


さっき佐藤さんが読んでくれたのに、やっぱり確認したくなってしまう。

「これで合ってるよね……」

何度も読み返していると、自分でも笑ってしまいました。

こんなに確認しても、説明が変わるわけじゃないのに。


静かな空間。

手の中には検査薬。

もう後戻りはできません。

ここまで長かった。

検索ばかりしていた日。

期待して落ち込んでを繰り返した毎日。

お姉さんの家族と過ごした温かい時間。

一緒に検査薬を買った行った帰り道。

全部が、この瞬間へつながっていました。


わたしは大きく息を吸い込み、ゆっくりと目を閉じます。

「お願いします」

誰に向かって言ったのか、自分でも分かりません。ただ、その一言だけが自然と口からこぼれました。そして、わたしは静かに検査を始めたのでした。


次回へ続きます。