ヴヴッ。

突然、わたしのスマホが震えました。

思わず肩がビクッと跳ねます。

画面を見ると、父からのLINEでした。

『元気?暑いからちゃんとご飯食べて』

たったそれだけの内容。


でも、その何気ない一文を見た瞬間、胸がぎゅっと締めつけられました。

父は、今日がどんな日なのか知りません。

わたしも、あえて話していません。

もし期待させてしまって、違った時に悲しい思いをさせたくなかったから。


「どうした?」

佐藤さんが心配そうに聞きます。

「お父さんから」

「そっか」

「今日のことは話してないんだ」

そう言うと、佐藤さんは静かに頷きました。


「結果が分かってからでいいと思うよ」

その言葉に救われるような気持ちになり、スマホをそっと伏せます。

余計なことは考えない。

今は目の前のことだけ。

そう思っていたのに、また違うことを考えてしまう自分がいました。


もし陽性だったら、一番に誰へ報告するんだろう。お父さんは、どんな顔をするだろう。

佐藤さんお姉さんも喜んでくれるかな。


そんな未来まで想像してしまい、慌てて首を振ります。

まだ何も分からない。

期待しすぎちゃダメ。

何度も自分へ言い聞かせます。


「ななさん」

佐藤さんが優しく声を掛けました。

「そろそろ、やってみる?」

その一言で現実へ引き戻されます。

「……うん」立ち上がろうとした瞬間、足に力が入らず、思わずソファへ座り直してしまいました。


「大丈夫?」

「ごめん……緊張しすぎたみたい」

自分でも笑ってしまうくらい、足が震えています。


佐藤さんは笑うことも急かすこともなく、わたしの前へしゃがみ込みました。

「ゆっくりでいいから」

「うん」

「今日は誰とも競争してない」

その言葉が、胸へすっと染み込みます。


そうだ。

急ぐ必要なんてない。

ここまで二人で待ってきたんだから。


わたしはもう一度、大きく深呼吸をしました。

そして検査薬を手に持ち、ゆっくりとトイレへ向かったのでした。


次回へ続きます。