あの日、一緒に買った妊娠検査薬。

「俺が持っておくよ」

そう言ってバッグへしまってくれた、あの小さな箱。

ついに、その箱が目の前へやって来る。

その事実だけで、手のひらにじんわり汗がにじみます。


数十秒しか経っていないはずなのに、とても長く感じました。

やがて佐藤さんが戻ってきます。

右手には、小さな紙袋。

「あった」その一言だけで、胸がいっぱいになりました。


紙袋から、見覚えのある検査薬の箱がゆっくりと取り出されます。

数日前、ドラッグストアで二人で選んだ箱。

部長に偶然会ってしまって、二人で大笑いしたことまで思い出しました。


あの時は、まだ少し先のことだと思っていたのに。

待ちきれないかもしれないと思っていたのに。

もう、その日なんだ。

 

「いよいよだね」

佐藤さんが静かに言いました。

「うん……」

それしか言えません。

その時でした。


ピンポーン。

突然、インターホンが鳴ったんです。

「えっ?」

二人同時に顔を見合わせました。

こんなタイミングで?

心臓が飛び出しそうになります。


「誰だろう」

佐藤さんがモニターを確認すると、宅配業者さんでした。

「あっ、荷物か」

「びっくりした……」

思わず大きく息を吐きました。


「今のタイミングは反則だよね」

「本当に」

二人で苦笑い。


さっきまで張り詰めていた空気が、その数秒だけ少し和らぎました。

荷物を受け取って戻ってきた佐藤さんは、検査薬の箱をテーブルへ置きます。


「じゃあ……」

そう言って箱へ手を添えました。

わたしも自然と、その箱へ目を向けます。

この小さな箱の先に、どんな未来が待っているんだろう。


何度も願った未来。

何度も怖くなった未来。

期待と不安が入り混じって、胸が苦しくなります。


「ななさん」

佐藤さんが優しく名前を呼びました。

「一人じゃないから」

その一言で、張りつめていた心が少しだけほどけます。


わたしは小さく頷いて、深呼吸をしました。

そして、ゆっくりと検査薬の箱へ手を伸ばしたのでした。


次回へ続きます。