そんなことを考えていると、スマホが震えました。画面を見ると、佐藤さんからです。

「お昼ちゃんと食べた?」

やっぱり佐藤さんはわたしのことをよく分かってくれてる。


「半分くらいしか食べられなかった」

そう返すと、すぐに返信が届きます。

「やっぱり」

「分かる?」

「もちろん」

そのあとに続いた一文を見て、胸がじんわり温かくなりました。

「今日は早く帰れるように仕事頑張る」

その短い言葉だけで十分でした。


わたしだけじゃない。

佐藤さんも、今日という日を同じような気持ちで迎えているんだ。

そう思えたからです。

午後の仕事を終え、退勤の時間になりました。

会社を出ると、思わず大きく深呼吸をします。

いよいよだ。


バッグを持ち直し、駅へ向かって歩き始めました。電車へ乗り込み、佐藤さんのお家へ近付くたびに、心臓の鼓動が少しずつ速くなっていきます。


あと数駅。

あと一駅。

車内アナウンスが流れるたびに緊張は大きくなっていきました。


駅へ着くと、改札の向こうには、仕事帰りの佐藤さんが立っていました。

爽やかなブルーのシャツが印象的です。


目が合うと、いつものように優しく笑って手を振ってくれます。

その笑顔を見た瞬間、不思議なくらい張りつめていた気持ちが少しだけ和らぎました。


「お疲れさま」

「お疲れさま」

短い挨拶を交わしただけなのに、お互い少し照れくさい笑顔になります。


今日は、いつもとは少し違う。

二人とも、そのことが分かっていました。

言葉は少ないまま、並んで佐藤さんのお家へ向かいます。


玄関の鍵が開く音を聞いた瞬間、数日前に佐藤さんがバッグへしまった、あの小さな妊娠検査薬の箱が頭に浮かびました。


いよいよ、その箱を開ける時が来たんです。


次回へ続きます。